14.鏡

Xiangyun


「何を見ている?」
兄様が入ってくるまで、私は我を忘れてこの目を奪うような光景に見入っていた。

鏡の向こうにいるのは緑の衣を着た異国の賢者。まさか、あなたが自分で飲むとは思ってみなかったわ。
予想外の展開だけど悪くないわ・・・。私はのどを鳴らして笑ってしまった。
「何のつもりだ。」兄様は私の悪ふざけと思ったらしい。眉をひそめて小言を言った。
「私はおいいつけのとおりにしましたのよ。でも、彼らが言うことを聞いてくれませんの」私はすまして言った。
「失敗したわけだな。」
兄様は少しあせっていらっしゃるみたい。確かに兄様の言うとおり。この人たちは一筋縄ではいかないらしいわ。
「ばれちゃいましたわね。彼らはもう、気づいてますわ。」
「構わん。どうせやつらはここから出ることはできないのだ」
「これから、どういたしますか・・・?」
「三人ばらばらに捉えることができれば、後はこちらのものだ。」

「・・・・・・。」



兄が出て行った後も私は鏡の向こうの人物から目が話せなかった。
椅子に縛られたあの人はこぶしを握ってずっとうつむいたまま、じっと耐えている。
彼の体が時々大きく痙攣するたびに私の体も興奮に震えた。
この人どうして叫びださないのかしら・・・叫んでしまえば楽になれるのに・・・。

今すぐにあなたのもとに行ってあげたい。額の汗を拭って、私の全身であなたの疼きを止めてさしあげたいわ。
あなたの静けさはとても激しい・・・自分では気が付いていないかも知れないけれども・・・。

ふいに彼の人の唇が動いた。
眉を寄せて苦しげな表情のままなにか呟いている。私は鏡に耳を寄せた。
「アンジェ・・・・リーク」
あの人はその名を読んでいた。囁くように、繰り返し・・・・。
私ははじけるように笑い出した。

あなた達がかつて金髪の女王補佐官を挟んで恋敵同士だったことは既に調べがついている。女王補佐官とあなたが、今恋仲だということも知っているけれど・・・人の心は変わるものだわ。
私はそっと鏡に映るあの人に口付けた。こんな風に私もあの人に呼んで欲しい。何度も・・・切ない声で。

私はいつまでも鏡に映るあの人の姿を貪るように見つめつづけていた。





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