24.仲違い Luva 飛行艇に辿り着くと、オスカーはすぐさま医務室に運ばれた。 肋骨と左の上腕部の骨が骨折していた。最初に受けたわき腹の傷は膿んでいたし、他も傷だらけだった。満身創痍の上に無茶な離陸で急激にGがかかり、普通の人間だったら三度は死んでいてもおかしくないところだが、この気丈な男は飛行艇が通常の運行に戻ったとたんに目を開けて「おいおい。ジェットコースターじゃないんだからな。」と苦笑いして見せたと言う。 改めて私はこの炎の守護星に敬意を表さずにはいられなかった。剣の腕前がどうこうじゃない、この精神力は半端じゃない。私は正直敬服した。オスカーに対する見方も変わった。アンジェのことでいろいろわだかまりがあったのは事実だが、立場を変えれば充分理解できる。むしろ同病相憐れむというか、今では親近感すら感じていた。聖地に帰ったら彼とはこれまで以上に協力してうまくやっていけそうな気がした。 ゼフェルとランディは帰り道のルートがどうこうと言って、またもめていた。 犬猿の仲の二人は道中止める人間がいないのをいいことに、盛大にやりあってきたらしい。 「まどろっこしーっつーんだよ。間に合わねーだろ。連続で時空移動すりゃあいいじゃねーかよ。」と主張するゼフェルと 「そんな危険なことをして異次元空間にはまったり機体が故障したら、それこそ間に合わないだろう」と言い張るランディは、議論と殴り合いを繰り返しながら、結果的には最も過激な時空移動を、これ以上は無いくらい細心の注意で安全に繰り返しながら、絶妙のバランスを保って最速でここまで辿り着いたらしい。 毎度ながら陛下の人選は的を得ている。 私達が最初に乗ってきた飛行艇もランディが無事回収してきた。とにかくすべては終わったわけだ。 私はゆっくりアンジェと話したいと思った。アンジェは一晩眠った後はずいぶん回復したようで、今朝からはもう起きだしているようだった。彼女もずいぶんと恐ろしい思いをしたと思うが、次々とトラブル続きでろくに話す時間が無かった。 やっとコンソールルームにいるアンジェを探し当て私は声をかけた。 「アンジェ」 振り向いたアンジェは明らかに怒った顔をしていた。 またか。私は少しげんなりした。このところアンジェの機嫌のいい顔を見たことがない気がする。 こんなに怒っている原因は・・・やはりあれだろうか?最後のシャンユンとのあれが逆鱗に触れたのだろうか? 「なんでしょうか?」切って捨てるようにアンジェが答えた。私はちょっとむっとした。彼女も分かりが悪すぎる。 「いえ・・・・なんでも・・・。」謝ろうという気持ちは消えうせていた。子供じみた意地を張って、私も無愛想に答えてしまった。 「・・・・・・くさい。」彼女がぶすっとして呟いた。 「は?」意味が分からず私は聞き返した。 「なんか香水くさいです。ルヴァ様。」 ずっと呼び捨てにしていたくせに、いきなり「様」づけで呼ばれて私は鼻白んだ。やっぱりだ。あのことを怒っているのだ。やきもちを焼かれるのは悪い気はしないが、それにしたってもっと可愛い焼き方があるだろうに。 「分かりました。あなたに近寄らなければいいんですね。」 もう口が好き勝手なことを言い始めていた。そうじゃないのに。私はあなたとふたりだけの時を過ごしたくて来たのに・・・。 ものもいわずに二人は並んでコンソールルームを出た。アンジェが右に行ったのを見て、私は左に曲がった。 曲がった瞬間に激しく後悔した。やっぱり好きなのだ。彼女が、どうしようもなく。 こうしてまた彼女が遠ざかってゆくのを感じながら、私はうなだれて部屋に戻っていった。 |