8.地下宮殿
Luva
翌日、地鳴りのような頭痛とともに目覚めた私は、すぐにそこが自分のテントではないことに気が付いた。体に毛布がかけられていて、額には何やら湿った布が載せられている。
ああ、そうだった・・・・・。私はやっとのことで思い出した。 夕べエドワードのテントで飲んで、そのまま眠ってしまったらしい。
テントの中にすでにエドワードの姿はなかった。ふと時計をみると、すでに作業開始の時間がせまっている。私は飛び起きるとあたふたと身支度をして、どうにか現場にかけつけた。
「よう、酔っ払い!・・・・よく起きれたな。」
この日エドワードはからかうような笑顔で私を迎えてくれた。エドワードは夕べのアルコールには全く影響を受けていないかのようだった。私は彼の強靭な肝機能をいささか羨ましく思いながら、曖昧に答えた。
「はあ、・・あの、夕べはその・・・。」
「頭はしっかりしてるか?・・・少し話したいんだが・・・・。」
「はあ。大丈夫です。話す分には・・・。」
「ちょっと来い。」
エドワードはいきなり私の腕をとると、引きずるように近くの物陰に引っ張り込んだ。
「地下宮殿の発掘の件だが・・・・」
タバコに火をつけながら彼が口にした言葉に、私は一気に緊張した。
「半分は賛成だ。この期を逃すと次はいつになるか分からない。俺の資金力じゃこれだけのプロジェクトを自前で起こすのは不可能だしな。」
「残りの半分というのは?何か気がかりなことでもあるんですか?」
私は勢い込んで聞いた。
エドワードはふいに真剣な表情になって私に向き直った。
「ルヴァ、お前の言うとおり、この陵墓は本物だ。まともに調査すればとんでもないものが飛び出すかも知れん。とにかく、今世紀最大の大発見であることは間違いが無い。」
私は大きくうなずいた。
「なぁ、ルヴァ、遺物はいったん散逸したら二度と戻っちゃ来ないんだ。遺跡の出土品は美術品とは違う。眺めて楽しむもんじゃないんだ。そこからは歴史が語りかけてくる、その声を聞いてやらなきゃならないんだ。・・・・ルヴァ、あんたなら分かるだろう?宇宙最大の宝を、単に金儲け目当てのハイエナみたいな連中に渡すわけには行かないだろう?」
エドワードの言葉は真摯なものだった。私はやっと得心した。彼はヘヴェル王の遺物が裏ルートから散逸してしまうのではないかと、そのことをずっと心配していたのだ。夕べ彼が言ったことが真実ならば彼が心配するのはもっともなことだった。
「ジャレドに話してみましょう?ちゃんと説明すれば、彼がうまくやってくれるでしょう?」
「・・・・・だといいんだが・・・・。」
これも皮肉ではなく、彼の本心のようだった。
「まあいい。俺もどっちみち、やる方で心は決まってるんだ。少なくとも今回はあんたという生き証人がいる。誰もそうそうめちゃくちゃな真似はできないだろう。」
「分かりました。私でお役に立てるんでしたら、不正を起こさせないように、私も手を尽くします。」
私は勢い込んで答えた。こう言うときには守護聖の肩書きも役に立つ。そういうことであれば、私でもなんとかできそうな気がした。
「それと、ジャレドへの話だが、あんた話してくれないか?俺じゃ通る話も通らなそうだしな。・・・・やるならすぐにも着手しないと間に合わない。話さえつけば明日からでも着手できるように準備しておく。」
私はそれも二言返事で承知した。
「おっと、それから・・・言っておくが、明日からはあんたはお客さんじゃないからな。俺を手伝ってもらう。せいぜいこき使ってやるから、覚悟しておくんだな。」
私は笑って答えた。
「あなたに使われるんだったら本望ですよ。」
私達は夜にまた打ち合わせをする約束をして分かれた。
私は久しぶりにすっかり興奮していた。エドワードがうんと言ってくれれば、3ヶ月のうちにはきっと地下宮殿の全貌を明らかにすることができるだろう。現金なもので、さっきまであんなに苦しかった二日酔いまでどこかにすっ飛んでしまった気がした。
ところが、
その後一日中駆けずり回っても、ジャレドはどこに行ったのか、なかなか見つからなかった。
夕方になって、やっと事務所でジャレドを捕まえると、私はさっそく「地下を掘ろう」と提案した。
ジャレドは怪訝な顔をしてみせた。
「 地下・・・ですか? それは・・・かまいませんけれども・・・。」
どうも歯切れの悪い態度だった。
結局ジャレドは承知したものの、地下を掘るには別な申請が必要だとか機材を再度調達する必要があるといったことをあげて「2、3日待って欲しい」と言い出した。
私は残り時間が少ないことを強調してみたが、彼はこの件だけは頑として譲らなかった。
私は結局妥協せざるをえなかった。もともと私に決定権があるわけでもなかったし、ジャレドは心底困っているようでもあった。
私は礼を言って、事務所を後にした。
とにかく、ヘヴェル王との邂逅に向けて、1歩前進したわけである。今のところ、これで良しとせねばなるまい。
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