11.砂漠へ
Zephel
その晩、俺は例によって作業部屋にこもって夜なべで作業をしていた。
作ってんのは、つまんねー、こども騙しみたいなもんなんだが、やってみるとなかなか面白くて、今夜も徹夜になりそうだった。
実はオレはルヴァがいなくなって相当淋しがっているアンジェのために、ちょっとした玩具をつくってやろーと思ったんだ。『ZW型ロボLRH-7』――ひらたく言えば卓上サイズのルヴァロボだ。
最初は自分でも「ばかみてー」と、思わないでもなかったけど、例によってやってるうちにオレは段々熱くなってきた。
『ああ・・・あの読みかけの本はどこに置いたんでしたかねー』と言いながら、うろうろ歩き回る「忘れ物モード」、『あああ・・・あなたまはたそんな御行儀の悪いことをして〜。これ、きちんと座りなさい〜』と、言いながら手を上下にぶんぶんと振る「説教モード」・・・・・・と作りこんできて、女の高い声で「きゃ〜ルヴァ様すてき〜!」と、声をかけられると、首から上が真っ赤になる「恥ずかしがりモード」を完成させた時には、オレは自分でもしばらく笑いが止まらなかった。
これはアンジェもぜえってー気に入るはずだ。オレはほとんど時間を忘れていた。
後はロケット噴射する『ぶち切れモード』を作ってやろうかと思い立ったその瞬間。
―――誰かが玄関を叩く音がした。
ノックなんてもんじゃねー。ほとんど叩き壊さんばかりの勢いだった。 誰だ?んなことしやがんのは?
ランディーだろ、きっと。始め俺はそう思った。こんなバカ力他には思いあたんねーし。
「・・・・んだよ・・・っせーな」
言いながら自分でドアをあけると・・・なんと信じられねーことに、そこにいたのはアンジェだった。
「・・・・何だよ。んな時間に。」
「お願い!助けてゼフェル様!・・・ルヴァが・・・ルヴァが死んじゃう!!」
アンジェのいつもノー天気なツラが見たこともないほど真剣な、張り詰めた顔になってた。
「・・・っんだよ、藪からボーによぉ。悪ぃユメでも見たんじゃねーのか?・・・ってて」
いきなり腕をぎゅっとつかまれて、それもまじでイテーほどつかまれて、オレは面食らった。いつものアンジェじゃねーみてーだ。
「お願い。次元回廊のセットの仕方を教えて!ゼフェル様ならわかるでしょ?」
「・・・・・・10分待て」
俺はアンジェを待たせると、ナップザックにその辺に散乱してる工具をがんがん詰め混んだ。なんだかわけわかんねーけど、アンジェがルヴァんところに行こうとしてるのは分かった。次元回廊の操作は口で教えてできるようなもんじゃなかったし、いくらなんでもアンジェを一人で行かせるわけには行かねー。
「行くぜ。」
俺はアンジェと二人、次元回廊の入り口へと向かった。
俺はいつも通り垣根をくぐって中に入ると、通用口からこっそりアンジェを招き入れた。 ゲートを開けると、パネルを操作して行き先をルヴァが向かった惑星のゲートにつなげた。
次元回廊が動き出すと、重力が掛かり過ぎたのか、ふと見るとアンジェは真っ青な顔をしている。
アンジェはふいにうずくまると、いきなり猛烈に胃液を吐き始めた。オレはぶったまげた。
「おいっ!大丈夫かっ?今、速度をゆるめるからな」
「・・・・ダメ」
アンジェはよたつきながらコンソールに歩み寄ると、体で覆い被さるようにして、俺からコンソールを隠した。
「ダメなの・・・急がないと・・・ルヴァが死んじゃう・・・。」
アンジェは泣いていた。
「わーったよ。やんねー、やんねーから、こっちに戻れよ。座って休め。」
俺はアンジェを床に座らせると、ぐったりとしたアンジェの体を自分によりかからせた。
俺は妙に落ち着かない気分になってきた。
連れて来ちまったのはやばかったかも知れない・・・・。 アンジェの青い顔を見るとそう思ったけど、こいつが昔っから言い出したらテコでも聞かないのも分かってた。
だけど具合が悪そうという以上に、アンジェの様子はおかしかった。
正直、最初、俺はアンジェのゆーことを本気にしちゃいなかった。こいつがいつもの通りべそべそと淋しがって、おーかた夢でも見たんだろう、ちょっくらルヴァに合わせてご機嫌が直ったところで連れて帰ればいっか、とまあそんな風に思ってたんだ。
だけど・・・・・。
いやな予感が俺にも伝染してきやがった。こいつがこんなになるなんて、 ひょっとして本当にルヴァの身に何かやべーことが起きてるのかもしれない。
ターミナルに着くなり、アンジェは一番最初に目に付いた建物に物も言わずに飛び込んだ。
オレはその無鉄砲さにあきれながらもアンジェの後に続いた。そこは宿屋のようだった。
「あのっ・・・遺跡発掘に来た人たちは?」
アンジェはまたしても最初に目にした人間をひっつかまえるとそう言った。
話し掛けられたやつはびっくりして開いた口がふさがらずにいた。そりゃそーだ。オレは部屋着できたからそんなには違和感がね―けど、アンジェのカッコときたら白いレースがどっちゃりついた女王補佐官の制服だった。
「発掘に来た人たちとどうしてもすぐに会いたいんです!」
アンジェはそいつの手を握って、ぶんぶんと降りたてた。
交渉10分後―――俺達はガタピシ揺れるジープの上にいた。
最後はアンジェの例の『お願いパワー』が炸裂した。
相手の目をまっすぐに見ながら、すがるような目をして「お願い!!」と言う―――今んとこ、これを断れるやつは、聖地には一人もいやしねー。
アンジェは相変わらず、顔色が悪かった。
しょうがねー。 俺はハラをくくった。
とにかく来ちまったものは仕方ねー。こっから先は俺の責任だ。
ルヴァの無事を確認したら、アンジェをソッコー連れて帰る。
ルヴァのいない間に、アンジェの身に何かあったら、俺、あいつに合わす顔ないもんな。
アンジェが青ざめて震えだしたのを見て、俺は上着を脱いでアンジェにかけてやった。
真っ青な顔でアンジェが振り向いた。
俺はアンジェが安心するように、笑って見せてやった。
「心配すんなって、もうすぐ会えるからな。」
アンジェはさっきからの思いつめたような表情をほんの少しだけほころばせて、小さくうなずいた。
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