12.黒い影

Edward


「遅いな、ルヴァのヤツ。」
俺はテントの中で、もう何本目かのタバコをもみ消した。
時間にルーズなヤツには見えない。毎朝の作業開始時間にも、ルヴァは遅れたことなんてなかった。何かあったんだろうか・・・・?
心なしか今日はキャンプの辺もいつものざわついた感じがなく、妙に静かな気がする。

様子を見に行こうかとテントを出かけたところに、ユーイーが、ものすごい勢いで泣きながら滑り込んできた。

「エドワードっ!助けて!ルヴァがぁっ・・・・!」
ユーイーは俺にすがりつくなり、涙で顔をくしゃくしゃにして、半狂乱でわめき出した。
「どうしたんだ?ユーイー?何があった!?」
「助けて!ルヴァが・・・ルヴァが!!・・・あたしのせいなの!ルヴァが死んじゃう!」
そのまま泣き崩れそうになるユーイーの肩をつかんで、こちらを向かせる。とにかく何かルヴァの身にとんでもないことが起こっているらしい。
「ユーイー!分かったから落ち着いてちゃんと話せ!ルヴァは今どこにいるんだ!」
「遺跡の中!あたしが連れてったの・・・ジャレドに連れて来いって言われたの!・・・そしたら部屋が爆発して、火事になって・・・・ルヴァは・・・ルヴァはまだそこにいるの!!」
「分かった。そこにいろ。」
俺はユーイーを離すと立ち上がった。何が起こったのか分からないが、とにかく遺跡へ・・・ルヴァを助けに行かねばならない。
「待って!」
テントを出ようとする俺の腕をユーイーが掴んだ。 「・・・・ルヴァが、言ってた。『気をつけろ』って・・・・。」
「分かった。」
俺はうなずくと、道具類の入った頭陀袋とスコップをひっつかみ、テントを出ようとした。

幔幕をくぐった その瞬間。
こめかみにつめたいものが押し当てられた。
黒いスーツの男の姿が目に入った。二人組みだ。

「エドワード・フレイクスだな」

男の手が容赦なく引金を引いた。 だが、あいにく、俺は充分『気をつけて』いた。ルヴァは自分も危険のさなかにあって『助けに来てくれ』ではなく『気をつけろ』と伝言してきた。その意味がわからない俺じゃない。俺は一瞬体を沈めると、手にもっていたスコップで思いっきり男の胴体を突いた。
消音銃の鈍い音があさっての方向に響き、男がのけぞる。

俺はすかさずテントに戻るとユーイーの手をひっつかんだ。 反対側の幔幕を杭ごと引っこ抜いてめくり上げると、止めてあったバイクにユーイーを押し上げる。
「しっかりつかまってろ!」
叫ぶと同時に俺はエンジンをかけた。
走り出すと同時に、 耳元すれすれを弾丸が掠めた。
まじかよ・・・・。 背中を一気に冷たい汗が流れた。

発掘現場を窃盗団が襲うことはないことじゃなかった。だけど、こいつらは食い詰めた流れ者じゃない。明らかにプロだった。 後ろからはバイクが1台と車が1台、しつこく追ってきている。幸いなのは連中が乗っているのが普通の一般車両で、俺のバイクのように砂漠用にチューンアップされてないことだった。
俺はバイクの速度を落とさずに、後ろを向くとユーイーをかかえた。後ろは危険だった。
悲鳴をあげるユーイーを前の座席に引きずり上げ、向かい合わせに座らせる。ぴったり抱き合うような形になってまたユーイーが悲鳴をあげたが、かまってる余裕はなかった。
「黙ってつかまってろ!」
そういうと、俺はユーイーごと体を伏せて、一気にバイクを加速させた。


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