22.勝負!

Zephel


ジャレドをふんじばって石室の隠し部屋に押し込めると、俺達はジャレドの言ったとおりのルートで地下へ向かった。
やたら長い石段を下りると、無茶苦茶タバコくせー部屋があって、そこの別な扉を開けると、その先は湿ってかび臭い石のトンネルが続いていた。

こん中のどっかにルヴァがいる・・・・・。

しんと静まり返った地下道は、何かでかい声で叫べばルヴァに届きそうな気がした。俺はひげ面を振り向いて聞いた。
「広さはどのくらいあるんだ?」
「約200平方キロメートル。」
ひげの言葉に俺は絶句した。聞こえるどころか・・・・半端じゃねえ。
「あいつらいったい何考えてやがんだ!そんなの誰が行っても抜けられるわけがねーだろ!」

「いや・・・・・ルヴァなら・・・・やつなら抜けられるかも知れん。」
ひげは腕組みをして、ちょっと考え込むような表情になった。
「地下迷宮は西大陸で他にも4ヶ所見つかっている。そのうち2つは同じ構造だ。もしその3つのどれかと同じ構造だとしたら、可能性はある。ルヴァが持ち歩いているノートに、3つの図面の写しがあった。」
「同じってことはないだろう?」
「いや、その可能性は充分にありうる。ルヴァに言わせると3つの地下迷宮の構造は非常に似通っていて、どれも古代とは思えないくらい精密でトリッキーなものになってるんだ。ルヴァは3つのルーツはここの陵墓じゃないかと言ってた。地図さえあれば・・・もしかしたら・・・・あいつなら・・・・。」
「そ・・・そのノート・・・・あたしが持ってる・・・・。」
おさげの女がおずおずと言った。
「ああ!?何だって!?」
ひげが大声を出すと、おさげは慌てて首をすくめた。
「ごめんなさいっ!だってルヴァが!」

俺は別な可能性を考えていた。
「・・・・あいつ、その地図を覚えてるかもしれないぜ。」
「まさか?」
「いや、・・・・分かんねー。あいつ、スキャナみたいな網膜してやがるからな。」
あいつは本読んでると他のことはみんな忘れちまうけど、気に入った本のことはしょーもねーことまでアホみたいに覚えてた。俺は何だか、この地図はルヴァのこだわりにひっかかってそーな気がした。
俺はひげの男を振り返った。
「つまり、仮にルヴァが迷わず最短ルートで宝のありかに向かったと仮定して、俺たちは地図を見ながらそのルートで探すのが一番確実じゃないのか?」
「そういうことになるな。」 ひげはうなずいた。
「おっしゃ!行こうぜ!この辺探して3つのどれに一致するかが分かれば、後は地図のとおりに行けばいいんだろ。何だラクショーじゃねーか。」
「まあ・・・・そう上手くいけばいいがな。」
俺達三人は入り口付近から徐々に道を探し始めた。

「待て・・・・・・・・」突然、ひげが俺達を止めた。「どうも妙だ・・・・・・。」
「・・・・・なんだか変な音がする」
おさげがびびったような声を出した。
「戻れ!」 ひげが叫んだ。
俺達は猛ダッシュで鉄の扉のそばまで戻った。


目の前では信じられない光景が広がっていた。
さっきまで静まり返って物音一つしなかった石だらけの廊下で、石の壁が、不気味な唸りをあげて 動き始めていた。

「まさか・・・・そんなバカな・・・・。」ひげ面が震える声で言った。
「もしかして・・・・・移動迷宮なのか? まさか・・・・まさか・・・・・ありえない、7千年前だぞ・・・・・。」
「おい、何ぐだぐだ言ってんだ。移動迷宮って何なんだよ。」
ひげ面は振り向くと青ざめた顔で俺に向かって言った。
「元々古代の王墓には盗掘を防ぐためのからくりが用意されてるものが多いんだ。移動迷宮は中でも一番大掛かりなもので、迷路自体が生き物のように動いて道筋を変えるんだ。2千年前の遺跡に1件だけ発見例がある。・・・そうなると道やトラップの場所を覚えていてもなんの意味もない。かえって危険だ。・・・・。」
「・・・どっかに動力があるんだろう?それを止めればいいんじゃないのか?」
「動力はない。」
「・・・・・・・どういうことだ?」
「一箇所を動かすことによって生まれた力が次のパーツを動かし、そうやって力を生み出しては伝え、永久に止まらない仕組みになっているんだ。」
「ふっざけんなよ!だったらどっか止めりゃあいいんだろ!1箇所止めりゃあ全部止まるって、そういうことだろ?」
「ただ止めればいいというわけじゃない。全体のからくりが一部の狂いもない緻密な計算の元に成り立っているんだ。下手にいじると全体が崩れる。唯一の発見例も、それで瓦解して結局仕組みは分からず終いだったんだ。」
「・・・・・・・。」



俺は無茶苦茶にむかついてきていた。
移動迷宮だと?止められないだと?
じゃあ何か?あきらめろってことか?ルヴァをこのまんまにしとけってことか?

・・・・・冗談じゃねえ。考えれば考えるほどハラが立ってきた。

人間が作ったもんだろ?止められねーわけがねー。
しかも作ったのは7千年前の原始人だぞ。
それを止められなかったら、俺はそれでも鋼の守護聖か?

頭ん中でパチンと火花がはじけた。

ルヴァは絶対地図を覚えてる。簡単にくたばるようなやつじゃねー。
壁さえ止めれば、ルヴァは必ず、自分で戻って来れるんだ。

「俺が止めてやる!」 俺は思わず叫んだ。
「無茶は止せ、ルヴァの命が危ない。」
俺はゆっくりとひげ面の顔を見返した。
「・・・・・止める方法はあるぜ。」

俺はひげに向かって言った。
「最初に動きはじめたパーツを止める!・・・・それなら止まるはずだ!」
「・・・だが、どうやって最初に動き始めたところを調べるんだ?」
「こいつでシミュレーションする!」
俺はバッグをごそごそして、最新式の携帯パソコンを取り出した。なんやかやとルヴァを騙して、めんどくせえ申請書を全部あいつに書かせてゲットしたばかりのもんだった。
一応シミュレーションソフトも入っていた。

「地図あんだろ、よこせ・・・・。」
俺はおさげに向かって怒鳴った。 「あーっくそ!正確な距離がわかれば話が早いんだがなー。」
「・・・・・この図面、距離が入ってる・・・・・・。」
ルヴァのノートを広げながら、おさげがぼそっとつぶやいた。

「あんだと!?」
俺達はいっせいにルヴァのノートの前にかがみこんだ。
三つの図面には異様なまでの几帳面さで、細かい数字がびっしりと書き込まれていた。
やったぜルヴァ!やっぱりお前は最高だ!
かなり頼りなかった可能性が、少し見えてきた。
俺はパソコンを立ち上げると、ルヴァの書いた図面に従ってかたっぱじからデータの入力を始めた。

目の前では石の壁が、俺達をあざ笑うかのように、軋んだ音をたててうねうねと形をかえ続けていた。
機械も何も無い時代だったはずなのに、考えられないほど精密な、とにかくすげえ仕掛けだった。
悔しいが、7千年前にこの仕掛けを作ったヤツラはすげーやつらだ。それは認める。
だけど俺もそいつらに負けるわけにはいかねえ。・・・・ルヴァの、命がかかってんだ。
俺は顔を上げて耳障りな音を立てつづける石壁をにらみつけた。
いいかっ!7千年のやつら!今から俺はお前らと勝負する。 負けたら俺は鋼の守護聖じゃねえっ!
頼みの綱はルヴァの残したノートとシミュレーションソフト・・・・ちょっとばかし時間がたりねーが、それは7千年分のハンディキャップってことにしといてやる。
俺は再び、シミュレーションの画面に目を落とした。
絶対止めてやる。
口ん中だけで、俺はもう一度、つぶやいた。

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