31.生命
Zephel
俺とエドワードは何とかロープを伝って上へ上がると、ルヴァとアンジェをそれぞれロープで釣り上げた。その時はもう、全員ひでーありさまで無傷のやつは一人もいなかった。
へたりこんでいたアンジェは、最後にあがってきたルヴァの姿を見ると、壁を伝ってよろよろと起き上がった。
「アンジェ・・・・」
慌てて手を貸そうとルヴァが歩み寄った時。
パシーンと乾いた音がした。
アンジェがルヴァに平手打ちをくれたのだ。
アンジェはふらついていて、スローモーションみたいなパンチだったけど・・・・ルヴァが避けなかったんだ。
「・・・・・すみませんでした。」
ルヴァは殴られた頬を右手で撫でながら、真面目な表情で頭を下げた。
「なんでっ!」
アンジェはよたつく足元を一生懸命踏ん張りながら、涙目で怒鳴った。
「どうして一人で行っちゃうんですか!私達のこと、大切じゃないんですかっ!・・・・あなたが、いなくなったら、私たち・・・・・。」
言いかけて、アンジェはまたウッと床に突っ伏して猛烈に胃液を吐き出した。
「アンジェ・・・・」 慌てて、ルヴァが駆け寄る。
ぜいぜいしているアンジェの背中をなでていたルヴァの手が、ふと、ピタっと止まった。
「あなた今・・・『私達』って言いましたね・・・・?」
アンジェの体がぴくっと震えて・・・・それから蒼白だったアンジェの頬に僅かに赤味が差した。
「そうなんですか?・・・・そうなんですね?」
ルヴァのわけのわからない質問に、アンジェは赤くなったまま、もごもごとつぶやいた。
「えっ、・・・・その・・・はい。たぶん・・・・。」
「アンジェリーク・・・・!」
驚いたことにルヴァのおっさん、俺達の見ている前でアンジェリークを抱きしめて、なんとキスまでし始めやがった。
「ったく、おめーら!何やってんだよ!見てんだろ皆が!」
ユーイーがくすくす笑って俺のわき腹をつっついた。
「鈍いわねえ。ルヴァの奥さんは、赤ちゃんができたのよ。」
ルヴァが唇を離すと、アンジェは涙でぐしゃぐしゃになったまんまの顔で、ルヴァを見上げて満足そうににこっと笑ったんだ。
その時のアンジェときたら、服は泥まみれでぼろ雑巾みたいだったし、顔も泥と涙でぐしゃぐしゃになって、とにかくひでーありさまだったけど・・・・・・
だけど俺は正直、その時のアンジェの笑顔を見て、
今まで俺が見たどんな女よりも、マジで、すげー、『きれーだ』と思った。
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