32.言葉
Luva
応急手当を受けた後、私はゼフェルの姿を探した。
アンジェやエドワードから話は聞いていた。今回私とアンジェが生きてあそこを出られたのは、ほとんど彼のおかげのようなものだった。かなり傷も負ったようだったので、それも心配だった。
ゼフェルは物見台の上で砂漠を見ていた。
その姿を見て、私は言葉につまった。
ズボンのすそからのぞく両足には厚く包帯が巻かれ、額の中央には大きなガーゼが貼られていた。額の傷は、・・・・もしかしたら、残るかもしれない。
私の姿を見かけると、ゼフェルは遺跡を指差して言った。
「すげーよな。7千年前にあれを作ったやつ。コンピューターがあったから何とかなったけどさ、無かったらオレ、そいつに勝てたかな?」
「ゼフェル・・・・あなたには本当に・・・・」
「黙れ。」
私が頭を下げかけた瞬間に、ゼフェルは口をへの字に曲げたままぴしゃりと言った。
「ゼフェル・・・?」
「ったく、・・・・おめーはうだうだとくだらねーことを言うんじゃねーよ。俺が今までにおめーに詫びとか礼とか、言ったことあるかよ?」
確かにゼフェルはそのどっちも言ったことはなかった。
そんな言葉が必要ないくらい、彼の無言はいつも私に、実に多くのことを語ってくれた。
・・・・同じなのかも知れない。彼の言いたいことは、何となく分かった。
言わなくてもいいのだ。ゼフェルはきっと、分かってくれているのだ、何もかも。
ゼフェルは相変わらず不機嫌そうに口をへの字に曲げたまま、にらむように私の顔を見つめている。
私は黙って彼に、自由になる右手を差し出した。
ゼフェルはちょっとびっくりしたような顔をした後、にやっと笑ってみせた。
「だっせーの。」
そういいながらパチンと音をたててゼフェルが私の手を握った時、 私は彼の手のひらの力が、私の予想を越えて力強いのに気が付いた。
私は何だかその発見が嬉しくて、初めて会ったときより幾分大人びた彼の笑顔を見て、微笑んだ。
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