33.砂漠に降る星

Angelique


その晩、私はルヴァに手を引かれて夜の砂丘に出た。
ルヴァが私に砂漠に降る星を見せたいといったのだ。

キャンプの灯りが届かないあたりまで来ると、空はもう満天の星だった。
「きれいでしょう?」
ルヴァの言葉に私は圧倒されてただうなずくしかなかった。言葉も出ない。寒さも完全に忘れた。本当に涙がでそうなくらい、きれいな星空だった。

私たちはルヴァの長衣にいっしょにくるまって、砂地に腰をおろした。
風が砂を巻き上げる音がした。単調だけど静かに胸に染み入るようなその音は、まるで子守唄のように聞こえた。
ルヴァは少しずつ、自分の住んでいた家のことや家族のことを話してくれた。
砂地を指差しては、ルヴァは言った。
「あの辺に水甕があってね、あの辺で火をおこすんです。 火をつけるのは私の仕事で、だからね、今でも出かけるときは火打石を持ち歩いているんですよ。」
「水を汲みに行くのも毎朝の仕事で、甕を持って出かけると、いつも弟が後からついてくるんです。」
弟さんのことを話すとき、ルヴァはちょっぴり言葉を詰まらせた。
寡黙で真面目なお父さんの話し、穏やかで優しかったお母さんの話し、やんちゃでルヴァのことが大好きだった弟さんの話し・・・・・私はルヴァの胸に頭をもたせたまま、ルヴァの止まらない話をうなずきながら聞いていた。
ルヴァのふるさと・・・・・ルヴァの家族・・・・一度も見たことも、会ったこともないけれど、それはルヴァを通して、私の中にもしっかりと染み付いていた。

「いつか、帰りましょうね、3人で・・・・・。」私はそう言った。
ルヴァは私の言葉に、嬉しそうな、そしてちょっぴり寂しそうな笑顔で答えた。

ふいにルヴァの腕が私の腰を引き寄せて、唇がゆっくりと下りてきた。
静かな、だけど火傷しそうなくらい、熱い、口づけだった。
私は初めて森の湖でルヴァと口づけしたあの時のように、震えながらルヴァの唇を受けた。
痛いくらいに抱きしめられて、痺れるような幸せを感じた。

理由なんてない。ただ愛している。

降り注ぐ満天の星の下で、私たちは時間を無くしたようにいつまでもいつまでも、抱きあっていた。


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