6.
誕生日(3)
Angelique
私の部屋に連れて行ってベッドに寝かせた時には、ユーリは真っ青になってガタガタと震えていた。
熱が一気に上がったようで、横にしたとたんに食べ物を少し戻してしまった。
それでもユーリがうわごとのように「お父さん・・・ごめんなさい」と、繰り返すのを見て私も執事さんも涙が止まらなかった。
ユーリを執事さんに任せて子供部屋に戻ろうとすると、ルヴァは居間のソファーに放心したように座り込んでいた。
青ざめて憔悴しきったその様子を見ると、責める気持も薄れた。
「もう二度とあんなバカなことしないで。」
私の言葉に顔を上げると、ルヴァは見たことも無いほど力を落とした様子で言った。
「すみませんでした。私が、・・・・間違っていました。」
私はため息をつくと、ルヴァの隣に腰をおろした。
「話して・・・・。どうしてあんなことしたの?理由があるんでしょう?」
ルヴァは膝の上で握った拳に目を落としたまま、切れ切れに話し始めた。
「過去にもあったんです。同じようなことが。・・・・その時も地の守護聖でした。 慈愛のサクリアに見せかけた滅びのサクリアが聖地に入り込んだんです。
彼は長期間にわたって大地のサクリアに極めて近い別な力を送りつづけ、女王と守護聖の間に不和の種をまき、民の心に不安を注ぎ込んで、研究院のデータ―を改ざんし、とにかくあらゆる手をつくして聖地を内側から蝕んでいったんです。
気が付いた時には宇宙も聖地も内側まで深く蝕まれていました。滅びの力が各地で蜂起し、恐ろしい闘いの時代がはじまったんです。」
「それで・・・どうなったの?」
黙りこくってしまったルヴァに続きを促すと、ルヴァは肩で大きく息をついた。
「・・・結局、かろうじて戦には勝ちました。女王と守護聖達の力で、滅びの力を当分危険がない程度まで抑えることができました。しかし、直後に女王のサクリアは尽き果て、守護聖たちも引き継ぎ期間もないままにいっせいに交替し、その後もかなり長期にわたって宇宙はその影響を受けつづけたんです。
その影響は、今でも完全には修復できていないとさえ言われています。」
「・・・ユーリが、そんなことするわけないじゃない?」
「異端のサクリアを持つ地の守護聖は、辺境の普通の酪農家の家に生まれたそうです。日常は極めて穏やかな人物で人望があり、いい人だったそうです。ただ・・・彼は、内面的にもう一つの人格を持っていたんです。」
「あなたはユーリもそうだって言うの?」
「一人で会話していました。あなたも聞いたでしょう?」
「だから・・・・だからあんなことしたの?ちゃんと確かめもせずに?そんなの全然あなたらしくないじゃない!どうかしてるわ!」
つい責める口調になった私に、ルヴァはがっくりと肩を落とすと、両手に顔を埋めてしまった。
「あなたの言う通りです。私がどうかしてました。つい・・・・動揺して。」
これまでルヴァのこんなに気弱な姿は見たことがなかった。弱気そうに見えても土壇場になると逃げない人だった。
私はもうひとつため息をつくと、うなだれてしまったルヴァの肩にそっと手をかけた。
「もういい・・・もういいから。・・・ちゃんと調べましょう?二人で何かちゃんと調べる方法を考えましょう。」
居間のサイドボードの上には、金色の紙できれいに包装された包みが載っていた。
ユーリの4歳の誕生日プレゼント・・・・・。
私は誰にともなくつぶやいた。
「お誕生日・・・・楽しみにしていたのに・・・・・・。 」
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