8. 悪夢

Angelique


いつもどおりルヴァより一足早く屋敷に戻った私は、すぐに屋敷の周囲の様子がいつもと違うのに気が付いた。屋敷の周りに何人か・・・普通の服装をした市民なんだけど、ちらちらと屋敷の方を覗き見るように見ている。
馬車を降りた私が目が合って会釈すると、首を伸ばして覗き込んでいた人たちは、そそくさと背を向けて離れていった。
私は訝しみながらも玄関を開けて屋敷に入っていった。
屋敷の中もしんと静まり返ってなんだか様子がおかしかった。
いつも馬車の音が聞こえた瞬間に走って出てくるユーリが顔を出さないのは、まだショックが続いているのだろうけれども、今日は執事さんまで顔を見せなかった。窓も開いてない。夕食の準備もまだみたいだった。

首を傾げたところに執事さんが2階から慌しく駆け下りてきた。
「お帰りなさいませ。申訳ございません。お迎えが遅れまして・・・・・。」
「ううん。そんなことはいいんだけど・・・。何かあったんですか?」
私の質問に執事さんは困ったような顔をして、それでも少しずつその日の出来事を話しはじめた。

ユーリがまた「あの」力を使った?
それも大勢の人が見ている前で?
足元がふらついた。めまいがしそうだった。
「それで・・・?ユーリは?」
「さきほどやっと泣き止まれて・・・泣き疲れてお二階で眠っていらっしゃいます。」

二階へあがろうとしたその瞬間、慌しく玄関先に馬車の音がした。
ドアを押し開けて、転がるようにルヴァが飛び込んできた。

「ユーリは?」
入るなりルヴァが緊張した表情で言った。
「お2階です。」
「支度させてください。アンジェリークも、すぐに出られるように。身の回りのものだけ持って。急いでください。」
青ざめたまま、ルヴァが早口で言った。
執事さんが転がるように2階に駆け上がって言った。

「ルヴァ?」
「早く!時間が無いんです。」
まだ事態が飲み込めずにいる私に、ルヴァは切羽詰った調子で言った。
「あの子はここでは生きられない。・・・・・あの子を聖地に置いておくわけには行かないんです。」


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