10.ひとり
Angelique
ゲートが開いた位置はエアポートのすぐそばだった。
私はユーリの手を引きずるようにして、エアポートに駆け込むと、あてずっぽうな行き先で切符を買った。
ユーリをせきたてて人気の無い地方便の待合室に飛び込むと、倒れ込むように椅子に座った。
頭が激しく混乱していた。
これからどうしたらいいんだろう。
ルヴァは主星で待っていろと言った。必ず迎えに行くからと言った。ユーリを守れと言った。
ここで待たなきゃならない。ルヴァが迎えに来るまで。ユーリを守らなきゃ。だけど、どこに行けばいいんだろう。どうすればいいんだろう。
両親はとっくに亡くなっていた。知ってる人は一人もいない。エアポートの様子も前に来た時とは全く様変わりしていた。
待合室の横を通り抜ける一団の人々が、私達の服装を見て何やら囁きあっている。
怖い。 心細い。
いきなりこんなところに放り出されて、どうしたらいいのか見当もつかない。
思わず頭を抱え込みそうになった時に、手のひらにふっと柔らかいものが触れた。
ユーリの手だった。
ユーリは、不安そうに首をかしげながら、私のほうを必死にうかがっていた。
―― いけない。
私はとっさに悟った。
不安を見せてはいけない。 私の不安はそのままユーリに伝染していた。
とても感じやすい敏感な子だった。 事態の異常さは飲み込めているはずだった。自分に原因があるということにもおぼろげながら気付いてしまっているかもしれない。傷ついているかもしれなかった。
ルヴァはこの子のサクリアが無害だということを証明して迎えに来るといっていた。 向こうとこちらじゃ大きな時差がある。ルヴァが1日かかれば、こちらでは1週間。数ヶ月かかればこちらでは何年かかるか分からない。
ユーリの手を握り返すと、私は大きく息を吸った。
覚悟を決めなきゃ。泣いてる場合じゃないんだ。ここで、何年経ってもユーリを守ってルヴァを待つんだ。
ユーリは青ざめて震えていた。
私は椅子から滑り降りると、ユーリの前にかがんだ。
今は私がルヴァになるんだ。ルヴァの分まで、この子を守らなきゃ。
「ねぇ。せっかくだから、遊園地に行こうか?」
私はユーリのブルーの髪を撫でて、笑いかけた。
「遊園地って?」
まだ緊張した表情のまま、泣きそうな顔でユーリが言った。
「すっごく、楽しいところ!ねっ、行こう!」
私は手の中でさっき買ったばかりの国内線のチケットを握りつぶした。
「お父さんは・・・?」 ユーリが首をかしげて聞いた。
この言葉は私の胸にまっすぐに突き刺さった。
「お仕事が終わったらお迎えに来てくれるから。それまでここでお母さんと待っていようね。」
辛うじて笑うことができた。
ユーリはやっと納得したようで、ちょっぴり笑顔を見せてくれた。
「さぁ!行くわよ!」
思いっきりはずみをつけて左腕にユーリの体を抱き上げた。
ユーリが小さく笑い声をあげた。
右手に持ったかばんは、腕がちぎれそうなくらい重かったけど、今、ユーリを離しちゃいけない、そんな気がした。
離しちゃいけない。しっかり抱いていてあげなきゃ。
私は抱き上げたユーリに笑いかけた。
「さぁ。行こっか!」
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