13.移民船(2)

Farc


ルナで下船許可が下りると、俺は人垣を押しのけて真っ先切って下船した。
何が何でもあいつを捕まえるつもりだった。俺は辛抱強くヤツが出てくるのを待った。

案の定、ヤツはあらかた客が降りきった最後の方で、あたりを気にしながらゆっくりとタラップを降りてきた。

「よう・・・お疲れさん。」
「・・・・どうも」
俺を見かけるとそいつは、昨夜の笑顔がウソみたいに、あからさまに迷惑そうな顔をした。
「・・・なんだ、逃げるなよ。乗員478名の命を救った勇者だろう?みんなも礼を言いたがってるんじゃないか?」
「迎撃したのはあなたです。操縦したのはあの学生さんです。私じゃないですよ。・・・すみません、急ぎますんで・・・・。」
急ぐやつがなんで最後に周りを見回しながら降りてくるんだ。俺は立ち去ろうとするそいつの腕を後ろからわしづかみにした。

「おい、待てよ。 何か訳ありみたいだな。 密航者か?」
「ちゃんとチケットは持ってますよ。」
男は苦笑して3等船室のチケットをひろげて見せた。
「何でベータに行くんだよ。まさか軍に入るつもりか?」
ベータに行く男の大概の目的はそれだった。
ターバンの男は肯定するようにうなずくと大真面目に言った。
「働かないと、食べていかれないでしょう?」
俺は苦笑した。目の前の男にはおよそ似合わない言葉だった。
全財産かけてもいい。 こいつの顔は今まで一度も食い詰めたことのないやつのそれだった。
「それでは、失礼します。」
男は一つ会釈すると、乗り継ぎのために用意されたゲートの方に歩いていった。
ゲートの向こうで何が起こるか、俺にはあらかた予測がついた。俺はわざと間を置いて、男の後を追ってゆっくりとゲートをくぐった。

案の定、ターバンの男はここでも怪しまれ検問に引っかかっていた。
「ええっとですね。実は移民なんで旅券はないんですよ。戦争が激しくなってきたんで主星に一旦避難したんです。」
男はやはり落ち着き払った様子でにこにこと衛兵に説明していた。 それが逆にまずい、ということにこいつは気付いていないらしかった。この男、頭がいい割には世間知らずに過ぎた。
多少おどおどしてたり、柄が悪かったりしたほうが怪しまれないのだ。こいつは何しろお上品過ぎた。
「すみませんが、ちょっとご足労いただけますか?」
衛兵に腕をとられて、そいつは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが
「分かりました」
と素直にそいつらの後に続いた。


俺はゆっくりと衛兵達に歩み寄ると、声をかけた
「おい」

振り向いたところを鳩尾に一発くらわすと、そいつはたちどころに膝を折って崩おれた。もう一人が銃を抜きかけたところを手刀で叩き落し、こいつは顔面に一発お見舞いしてやった。

二人が地面に転がってうめいている隙に、俺は呆然としているターバンの男の腕を引っつかむと、逆方向に走り出した。

「あのー。あの人たち、大丈夫なんでしょうか?」
どんな生活をしてきたのか、そいつはちょっと走っただけで息を切らしながら、それでもぶっ飛ばされた衛兵達のことを気にしているようだった。
「手加減した!なに!死にゃしないさ!」
建物の裏手に回ると、手はずどおりに本国からの迎えの小艇が既に着陸していた。
「ファルク!無事か!」
「おうよっ!」
迎えに来た仲間に手を上げて答えながら、俺は長身のターバンの男を後部座席に押し込んだ。
乗り込むが早いか、小艇は離陸し、高速飛行を開始した。

成層圏を抜けると俺は後部座席を振り向いた。
「ところで挨拶がまだだったな。俺の名前はファルクだ。あんたは?何ていうんだ?」

名前を聞かれるとターバンの男はまた黙り込んでしまった。
やっぱりワケアリらしい。俺は笑って言った。
「名無しか・・・・まぁいいさ。」

「あの・・・」
そいつはやがて控えめに口を開いた。
「なんだ?」
「この船、どこに行くんですか・・・?」
俺はにやっと笑ってそいつに言った。

「惑星カイゼル・・・・。」



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