38.足跡(4)
Angelique
エアポートの人ごみの中、長身のアルフレッドを見つけると、私は大声で呼んで手を振った。
「アルフレッド!」
「アンジェさん!見送りに来てくれたんですか・・・って・・・それ、なんですか?」
振り返ったアルフレッドは、私が両手に抱えている長期旅行用のスーツケースに目をやると、困ったような笑顔になった。
「お願い!私も連れてって!」
「ダメですよ、アンジェさん。親父が言ったでしょう?本当に危険なんです。女性が行くとこじゃないですよ。」
「他にも女の人たちが乗ってるじゃない。」
「うう〜ん・・・。あの人たちは言ったらなんですがあなたほどキレイじゃないし若くもないし・・・、とにかく!今回は俺に任せてください!アンジェさんが作ってくれたリストもあるし!俺がちゃんと調べてきますから!」
予想通りの反応だった。
説得が無理と分かると、私はくるりとアルフレッドに背を向けた。
「そう。・・・じゃあ仕方ないわね。気をつけて行ってらっしゃい。」
そう言ってさっさと歩き出した私の肩を、笑いながらアルフレッドが掴んだ。
「アンジェさん、違いますよ。出口は反対側・・・そっちは搭乗口ですよ。」
「構わないで。私の行き先もこっちなの。」
「・・・・・アンジェさん・・・・。」
アルフレッドは困り果てた表情で私の顔を覗き込んだ。
「心配しないで、私が勝手に一人で行くだけだから。アルフには迷惑をかけないわ。」
「そんなこと言って・・・第一切符はどうするんですか?半端な金額じゃないですよ?」
「切符なら・・・持ってるもの。」
私はアルフの目の前で一般船室のチケットをひらひらさせて見せた。
「・・・これ?どうしたんですか?」
「心配しないで。お金なら聖地から持ってきてたくさんあるから。半分ユーリに残して半分を旅行用のデポジットカードと小切手と現金にしてきたわ。10万デリルくらいあるから・・・。これなら何度乗り換えても1ヶ月くらいは大丈夫でしょう?」
「アンジェさん・・・・。」
相変わらず私の肩を掴んだまま、アルフレッドは大きくため息をついて、そしてもう一度私の顔を覗き込むようにした。
とても優しい声で、アルフレッドは言った。
「あなたそのお金、ずっと、持ってて使わなかったんですか?使わないでずっと働いてたんですか?・・・・叔父さんのために?」
真面目な顔で見つめられて答えにつまっていると、不意に両手が軽くなった。
「荷物・・・・・全部貸してください。俺が持ちます。」
さっさと私の手から荷物を取り上げるとアルフレッドは先に立って搭乗口の方へと歩き出した。
「アルフレッド・・・。 」
「どうせ説得したって聞かないんでしょう?あなたにはかなわないや・・・俺がお供します。親父にはまぁ結果オーライってことで!二人で叔父さんを見つけて帰りましょう!」
そう言うとアルフレッドは私のほうに振り向いて、悪戯っぽい笑顔で片目をつぶってみせた。
「有難うアルフレッド!」
「どういたしまして・・・でも本当に危ないんですからね。一人で船室から出ないこと。俺のそばから離れないでくださいね。それと・・・ネッカチーフでもかぶって、もうちょっとおばさんっぽいカッコして目立たないようにしてくださいね・・・無理かもしれないけど・・・。」
「分かったわ!あなたの言うとおりにします!」
「あー、それと、俺も勘当がかかってるんですからね?忘れないでくださいよ、例の約束!美人のお友達、紹介してくださいね!」
「それも分かったわ!美人で優しくて神経の強い人ね?」
「・・・できれば俺、あなたみたいな人がいいんですけど・・・・。」
アルフレッドが冗談めかしてつぶやいたひとことは、エアポートの喧騒に紛れて私の耳まで届かなかった。
「なに?アルフレッド・・・何て言ったの?」
聞き返す私に、アルフレッドは笑って肩をすくめた。
「いーえ、何でも!宇宙に出たら本当に俺から離れないでくださいね?」
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