46.カジノ船(3)
Luva
馬鹿じゃないだろうか、私は?
まだ欲しいのだ、あの人が。
触れたかった。
口づけしたかった。
抱きしめたいと思った。
目を開けてくれないかとねがった。
微笑んでくれるのではないかと期待した。
―――愚か者。
早足で廊下を歩きながら、立っているのも難しいくらい足が震えていた。
もうほとんど忘れたと自分に言い聞かせていた。
やっとそれに慣れてきたと思ってた。
それなのに、まるでそんな私を嘲笑うかのようにあの人は現われた。
触れてはいけないものなら、何故手の届くところに現われるのだろう?
心臓が激しい動悸を刻んでいる。
騙せない。
愛 している・・・愛している・・・・愛している・・・・
まだ、愛している・・・・。 違う。 前よりももっと、求めている。
あなたを見た瞬間に、
全身の細胞が母親を見つけた幼子のようになだれを打ってあなたを求めた。
頭も体も、持ち主の意図に背いて、あなたの方へと諸手を伸ばした。
もうお前のものじゃない、他の男のものなのだと、何度言い聞かせても無駄だった。
他の男・・・そう、アンジェリークの夫・・・。
―――死ねばいい。
一瞬、足が止まった。
そうだ。助けなければいい。
このまま艦隊を率いて戻れば、彼には救いはない。
どこか、遠い・・・・遠いところで
彼女に会うことなく、一生を終えるのだ。
「・・・・・・・・・・・」
拳が震えた。
手のひらに爪が食い込むくらい、激しく拳を握り締めながら、私は震えていた。
そんなこと、・・・・できるわけがない。
それはまさしくかつての自分の姿だった。
ばかげている。
彼らには何の罪もない。
余計なのはアンジェリークの夫ではなくて、私の方なのだ。
床に張り付いた足を引き剥がすようにして、私は歩き出した。
目をつぶってオペレーションルームの自動ドアをすり抜ける。
関係ない・・・・
自分には何の関係もない・・・・。
感情もない・・・・。
私は顔をあげた。
「リモート・コントロールの小型船を2隻用意してください。両側から突っ込んで、敵船の動力部分を止めます。位置はデータで指示します。速度に注意してください。船底にはかなりの数の捕虜が収容されています。くれぐれも燃料に引火しないように。続けてダクトから催涙ガスを投入します。図面を送信しますので、ルートを確認してください。・・・・」
これは仕事なのだ。
意味なんかない。目的もない。好きも嫌いも全く関係ない。
死なない限り続けなければならない、
ただの日常動作のひとつに過ぎないのだから・・・。
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