50.決意(1)
Luva
もう止そう。
こんなこと何の意味も無い。
彼女はもう関係のない他人なのだ。
これ以上ぐずぐずと彼女のことを考えてはいけない。
彼女を責めてはいけない。彼女を自由に、解放するべきなのだ。
ユーリもそうだ。
ユーリはまっすぐに成長していた。
彼女が一人でユーリを育て、正しく導いたのだ。
私は何もしていない。
今更彼にあれこれつめこんで、少しでも自分に似せようなんていうのは、エゴ以外の何ものでもない。
金銭的な援助はさて置いて、手紙のやり取りなどはこれ以上するべきではない。
教えることなど・・・与えるものなどもう何もないのだ。
決心した。
離れよう。あの二人から。
心の中で思うことは止められないかも知れないけれど、それでもやはりできるだけ思わないようにしよう。
最後にひとつだけ、私は自分を甘やかすことを認めた。
一目だけ、・・・ユーリに会いたい。
あんな形ではあったが、アンジェリークの顔を見ることができた。
成長したユーリの姿を見ることができたら、思い残すことは何も無い。
その直後に死んだとしても悔いは無い。
執務室を訪ねた私を、ルビアは書類から顔も上げずに迎えた。
「どうしたの・・・?」
「私に一週間、自由をいただけないでしょうか?」
「・・・・・おおげさね。休暇でしょう?構わないわ。あなたずっと休んでないし・・・許可します。」
「有難うございます。」
「それと・・・・こないだの件は、高くつくわよ」
「・・・分かってます。・・すみませんでした。」
ここまで言うとルビアは書類から顔を上げてひたと私を見つめた。
「あのひとに会いにいくの?」
「・・・・そんなはず、ないでしょう・・・?」
私は自嘲的に答えた。
たった今、二度と会わないと・・・考えもするまいと決めたばかりなのだ。
ルビアは再び書類に目線を落とすと機械的に言葉を続けた。
「休暇の前に一つだけ片付けて欲しい仕事があるんだけど・・・。」
「はい。」
「モズリヴから先一帯で西の方から流れてきたモーグイが暴れてるらしいわ。手ごわい連中らしいんだけど・・・・あなたなら、何とかできるでしょう?」
「分かりました」
「終わったらそのまま休暇に入ってもらって構わないわ。結果は参謀室に報告しておいてくれればわざわざ直接報告にくるには及びません。」
「分かりました」
ルビアが片手を振ったのを合図に、私は退出した。
―――ユーリに会うのはほんの少し先になった。
すぐにでも会いたいと思う反面、延びたことにほっとしている自分がいた。
少しだけ、考える時間が出来た。
時間は必要だった。
考えて・・・自分に言い聞かせなければいけない。
逢うだけ・・・顔を見るだけなのだと。
それ以上何も望んではいけないのだと。
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