51.決意(2)

Rubia



我ながら素直じゃない・・・・。

背を向けて立ち去っていくあの人の背中を、私は焼け付くような視線で見送っていた。

あんなにも会いたくてたまらなかったくせに、自分からは部屋を訪ねることも、呼び出すこともできなくて・・・。
せっかく向こうから訪ねて来たときには、ことさらに冷たくあしらってしまった。


私は椅子から立ち上がると小さくため息をついた。
このため息も、あの人と出会って初めて覚えたものだった・・・。

今でも唇から、頬から、髪から・・・・あの時の感触が消えない。
大きな温かい手が頬に触れ、髪をなで、背中を力強く引き寄せた。
触れた部分はどこもかしこも温かくて・・・逆らうこともできないまま、気がつけば引き込まれるように無我夢中で口づけに応えていた。


・・・・・分かってる。

あのキスは本気じゃない。
あの女性への単なる当てつけに過ぎない。

愛しているから・・・・
あの女性をあきらめきれないから、だからヨカナーンは私にあんなことをした。
愛情なんかじゃない・・・・。



きれいな人だった。
美しい長い金髪・・・透き通るような大きな緑の瞳。
誰もが庇いたくなるような優しい、頼りなげな風情は私には無縁のものだった。



だけど、私にはやっぱり理解できなかった。

確かに美しく魅力的だけど、あのひとが本当に彼にふさわしいと言えるのだろうか?

結局あのひとは自分からヨカナーンを裏切って他の男と結婚したのだ。ヨカナーンがあのひとを取り戻そうとなりふり構わず血みどろになって戦っているときに、あのひとは他の誰かの胸に抱かれていたのだ。
それを今になって、あんな思わせぶりな態度で別れた男の気を引こうとする・・・私にはそれが理解できなかった。

自分から彼を捨てておいて、未だに彼の心を捉えて離さない・・・。
それは理不尽じゃないだろうか?



私はデスクから立ち上がった。


ぶつかってみればいい
これまでだって、困難から逃げたことはない。

軍事強国に囲まれ、海賊や星間戦争の脅威に常に晒されながら、この小さな星を守るために、どんな困難にも恐怖にも恐れをねじ伏せて立ち向かってきた。

私も、この星も、ヨカナーンを必要としている。
ヨカナーンの心の中にある呪縛を断ち切ることができれば、彼も私もこんなに苦しまなくてもいいはずだった。


もう一度、会おう・・・あの女性に。
決めた。私は彼女に会って、直接話さなければならない。
もし彼女が彼に愛されるに値しない女であれば、そのときは悩む必要はない。
全力を尽くして、彼を振り向かせて見せる。
すべての呪縛から、彼を解き放ってみせる。


「ファルク・・・すぐに来て。」

インターホンでファルクを呼び出すと、顔を出した彼に直ちに言いつけた。

「高速艇を1台用意して。・・・2,3日出かけます。」
「出かけるって・・・どこに?」
「行き先は外から連絡するわ。誰にも言わないで。おおげさにしたくないの。留守中何かあったら参謀達に諮って。私の判断が必要なときには通信で知らせて頂戴。 」
「一人で行く気か?・・・俺もつきあうぜ?」

「ついてこないで。」

心配そうに首をひねるファルクに私は笑って見せた。

「バカなことをやりに行くのよ。・・・・誰にも見られたくないわ。 」



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