66.覚醒(2)

Angelique


連絡を受けて聖殿に向かうと、聖殿の入り口でオスカー様が私を待っていた。

「悪かったな、呼びつけて。・・・・俺の部下が君にどうしても会いたいと言ってるんだ。」
「オスカー様の部下・・・ですか?」
私は首をかしげた。

オスカー様は笑って私を執務室に招き入れると、自分のデスクの前に座らせた。
目の前には小さな通信用のモニターが設置されている。

「君と直接話したいそうだ。俺は外しているから、ゆっくり話してくれ・・・。」
通信機のスイッチを入れると、オスカー様は私に向かって片目をつぶって、部屋を出て行った。

モニターの画像に浮かび上がった人物は・・・・黒髪の女性・・・ルビアさんだった。

「・・・ルビアさん・・・。」

「有難う。あなたにひとつ借りができたわね。」
短い沈黙の後、ルビアさんが口を開いた。

「良かったですね、ご主人・・・・ヨカナーンさん、助かりましたよ。」
笑いかける私に、ルビアさんは大きく肩をすくめてみせた。
「ヨカナーン?彼はカイゼルでは死んだことになってるわ。戸籍ももう「死亡」で処理しちゃったわよ。」
「えっ?」
「はっきり言っておきますけど。私、あの人と結婚なんてしてないし、これからもするつもり、さらさらありませんから。」
「だって・・・・子供はどうするんですか?」
私の言葉にルビアさんは笑いながら椅子から立ち上がった。
「よく見なさいよ。あなたも子供がいるなら分かるでしょ?これが妊婦のおなかかしら? ・・・・・あの人もよく見れば分かったでしょうに、とことん私に興味がなかったみたいね。全然気が付きやしなかったわ。」
「ルビアさん・・・・」
「子供なんてできるわけない。あたし達何にもなかったんだから。 あのバカ男が奥さんに捨てられたってやけになって飲んだくれてたから、ベッドの中にもぐりこんでやったの。だけど結局なにも無かったわ。
・・・・ 勃たなかったのよ。何しても、全然。 それどころか、男のくせに自分を捨てた奥さんの名前ばっかり一晩中呼び続けて・・・・ みっともないったらなかったわ。
私は女王ですからね、跡取が必要なの。あんなに情けない、しかも不能の男なんて真っ平ごめんよ。 あんな役立たずは熨斗つけてあなたにお返しします。」

ルビアさんはもう一度私の顔を見ると、にっこりと微笑んだ。

「嘘よ・・・・役立たずは私のほう・・・。あなたなら・・・・あなただけがきっと、彼を奮い立たせることができるんでしょうね。
・・・・・大事にしてあげなさい。見た目より一途で純情な人だから。 あなたがいなきゃ生きていけないみたいよ。 ・・・・ごめんなさい・・・・分かってるわよね、こんなこと。」

「・・・・・・。」

「そうだ。忘れるとこだったわ。あのバカがやけになってダストシュートに捨てた指輪を私が拾っておきました。 そのうちそちらに届くと思うわ。いちおうゴミの山の中から自分で探したのよ。・・・・あなたに、悪かったと思ったから・・・・・。」
ルビアさんは、もう一度モニターを覗き込むようにして私を見ると、にこりと笑った。
「ねぇ・・・ごめんなさい。・・・本当に悪かったと思ってるわ。・・・・だけど・・・・これからもあなたのこと、友達だと思ってもいいかしら?」

モニターの向こうで微笑むルビアさんに、私はしっかりと頷き返した。
「・・・・・ええ。・・・もちろんよ。」


画面の中からルビアさんの姿が消えても、私はしばらく立ち上がることができなかった。


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