地の守護聖邸執事の更なる憂鬱



私がお仕えする地の守護聖様は、それはそれはご立派な良く出来た方でございます。
こんなにお優しく人情味があって思慮深く聡明で鷹揚な方は、そうそういらっしゃるものではございません。
私が旦那様にお仕えするようになってかれこれ十年以上になりますが、年はお若いですけれどそのお人となりには日々敬愛の念を深めるばかりでございます。


ですが・・・・ですが・・・・・。


このところの旦那様のなされようは、はっきり申し上げて私は納得が参りません。
とにかくあまりにも不甲斐ないと、心中じれったく思わずにはいられませんでした。


旦那様には将来を約束した方がいらっしゃいます。
そのお相手とは他でもございません、聖地でも女王陛下を除けばもっとも美しく可愛らしい女性と評判の高い、あの、女王補佐官のアンジェリーク様でございます。

昨年、まだアンジェリーク様が女王候補生であられたころ、お二人は恋に落ち、旦那様はあまたの恋敵を打ち負かしてアンジェリーク様のハートを射止められたのでございます。
アンジェリーク様は女王に内定していたにも関わらず、「旦那様のために」その栄誉を惜しげも無く手放されたのでございます。
あの時、アンジェリーク様に思いを寄せられた他の守護聖の皆様がどんなに悔しがられたことか・・・・・思い出しても胸がすっとする♪・・・・いや、お気の毒で胸の詰まる思いが致します。


しかし、その後が問題でございました。
その後もはや1年もの歳月が経とうとしておりますのに、お二人の間には「まったく」、「何も」、進展がないのでございます。
アンジェリーク様が試験を放棄された後、私はてっきりお二人はすぐに結婚されるものと思っておりました。ところが結婚話が一向に湧いてこないばかりか、「何も」無いままに1年が打ちすぎてしまったのでございます。

昨年のあの日、お館の洗濯籠にきちんと畳まれた2着のバスローブを発見したあの日、私は「さては!」と思ったものでした。旦那様もそういった方面に疎いようにみえて、きちんとやるべきことはやっていらっしゃるものと胸をなでおろしておりました。
ところが、後で聞いた話で、それは私の早合点だったということが判明してしまいました。お二人の交際は、未だにそのへんの中高生とたいして変わらない、ほとんどおままごとのようなレベルに留まっているようなのでございます。


アンジェリーク様は以前と同様、週末になると遊びに来られますが、夜になると聖殿にお帰りになってしまうのです。
私が申し上げるのもなんですが、妙齢の男女が、しかも婚約を交わしているわけですから、例えこちらにお泊りになったところで誰がとやかく言える筋合いでもございません。何も味気ない聖殿の寮のようなところにお帰りにならなくてもいいのに・・・・と、私などは思ってしまうのでございます。

アンジェリーク様は、お仕事柄他の守護聖方とご一緒にお仕事をされることも多いようで、庭園や大通りを他の守護聖様と仲良く談笑しながら肩を並べて歩いているアンジェリーク様をしばしばお見かけ致しました。そのたびに私はのんびりした旦那様の分まで焦りを感じずにはいられませんでした。


こればっかりは旦那様が悪いのでございます。
あまりにも不甲斐ないではございませんか?
そろそろ三十にもなろうという男が、いくら結婚前とはいえ公認の恋人を一年も放ったらかしにして良いものでしょうか?
婚約ということは「結婚の約束をした」ということで、中途で解約されるという事だってありえるわけでございます。しかも一年の長きにわたって何の進展もないということは、周りには「もはや自然消滅か?」と受け取られても仕方ない状況ではございませんか?

思い切ってご結婚のとこで旦那様に水を向けてみたこともございましたが、旦那様はいたってのんきで
「ああ、まあ、それは別に・・・・私は急ぎませんから・・・。」とか「彼女もまだ若いですしねー」とか、一向に焦りを感じているご様子は見られませんでした。
本当に人をやきもきさせる旦那様ではございます。



そんな折もおり・・・・。
いつもどおり日の曜日に館にお越しになったアンジェリーク様は、旦那様のお部屋でおつくろぎになっていらっしゃいました。
食後に一度お茶をお届けしてから、私はお二人のお邪魔をしないように、キッチンで控えておりました。


ところが・・・・。


急にドアが荒々しく開く音がしたかと思うと、アンジェリーク様がものすごい勢いで階段を降りていらっしゃったのです。アンジェリーク様はとても慌てていらっしゃるご様子で、上着も帽子も身に付けようとせずに手に持ったままでした。何やら涙ぐんでいらっしゃるご様子で、それでも私を見るとけなげに笑顔を向けられました。
「ごちそうさまでした。今日はちょっと用事があるので、これで帰りますね。おやすみなさい。」
そうおっしゃると、ぱたぱたと駆け足で出て行ってしまわれたのです。


私はこれはてっきり旦那様が何か「へま」をされたに違いないと思いました。旦那様はあれだけの知性をお持ちでいながら、色恋や女性の気持といったものにはあきれるほど無頓着でいらっしゃる。何か又アンジェリーク様のお心を傷つけるようなことでもなさったのではないかと、私は他所ごとながら心配でなりませんでした。

正直申しまして、この時点で私はもはやアンジェリーク様を将来の奥様と目して旦那様とほぼ等分といっても過言ではないくらいの敬愛と親しみを感じておりました。なにしろアンジェリーク様は本当に優しい、可愛らしい方で、いつも気軽にキッチンに入ってこられて、「花嫁修業」といいながら料理を手伝って下さったり、甘えて食べたいものをリクエストされたりするのがお可愛らしくて、恐れ多いことながら実の孫娘のように思えることさえございました。

いくら旦那様とはいえ、将来の奥様を泣かせてしまわれるとは見過ごすわけには参りません。片付けにかこつけてお部屋に伺い、それとなくご意見申し上げよう・・・・と思いながら部屋に上がっていった私は、そこでまた言葉を失ってしなったのでございます。


旦那様はソファーにかけられたまま、完全に放心していらっしゃいました。その情けないほど落ち込んでいらっしゃる姿に、私はもはや何も言うことができませんでした。

私は黙ってティーセットを片付けると一礼してキッチンに戻りました。
そこで私は旦那様に負けないくらい、深―いため息をついたのでございます。
もしかしたら、お二人はこのまま終わってしまうのではなかろうか・・・・・私は、そんな漠然とした不安を感じ始めておりました。



旦那様が遠方に出張されることになったのは、ちょうどそんな時でした。
アンジェリーク様もご一緒と聞いて喜んだ私は、その後、オスカー様も同行されると聞いて一気に不安になりました。
実は、一時聖地で"アンジェリーク様とオスカー様が恋仲だ"という噂があったのでございます。
ご本人の話では「一度私邸に遊びに行っただけ」というのが真相のようでしたが、どうやらオスカー様はアンジェリーク様をまだあきらめてはいらっしゃらないのではないか・・・・そんな噂は今でも口さがないものどもの間でささやかれておりました。
不安な気持でお二人を送り出した後、その後、お二人の身の上に大きな事件が降りかかってきたのでございます。



その後、旦那様とアンジェリーク様のご一行が、行き先でトラブルに巻き込まれているという知らせが入り、聖地は一気に緊張いたしました。
私は生きた心地もせず、ただ情報を求めて聖殿に日参する日々でした。
聖殿でも手は尽くされているもののなにぶん遠く離れた辺境の地ということで、一向に情報が入ってこないらしく、慌しく人が飛び交う中で、みなさん私に構っている場合ではないといった様子がありありと見て取れました。
そんな中で私のために骨を折ってくださったのは意外な人物でした。


「おめー、なんだよ、ルヴァの館の執事じゃねーか」
聖殿の入り口でただうろたえている私に声をかけたのは誰あろう、あのいつも旦那様に楯突いて困らせてばかりいる、ならず者のようなゼフェル様でした。

「ルヴァが心配で来たんだろう?そんなとこでうろついてたって無駄だぜ、こっち来いよ。」
ゼフェル様は私をご自分の執務室に連れていかれると、見たことも無いような大きなテレビ画面に、ルヴァ様のいらっしゃる星域を映し出して見せてくださいました。
「いいか?アンジェがサクリアを使って知らせてきた情報によると、どうやらこの星の連中はよからぬことをたくらんでいて、ルヴァ達を捕えようとしているらしい。ルヴァがそのことに気が付いて、ふたりを先に逃がしたらしいんだが・・・・・その後のことはまだ何も分かっちゃいねー。」
「そそそそそ・・・・・・そんな・・・・。」私は腰を抜かさんばかりに驚きました。旦那様は知恵は有り余るほどお持ちなものの、武術の方はからっきしなのです。そんな旦那様がどうしてお一人で敵地に残るような危険な目にお会いになっているのか、私には分かりませんでした。
「心配すんな。俺が助けに行く。」
ゼフェル様は私の肩に手を置くと、励ますようにおっしゃいました。
それは、私が初めて耳にするゼフェル様のお優しい言葉でした。
「こんなとこ、俺に操縦させりゃ3日で着けるんだ。ルヴァは俺が首に縄つけてでも連れ戻してやる!絶対無事で連れ戻してやるから心配すんな!」
この力強いお言葉に私はお礼の言葉より先に涙が溢れ出してしまいました。本当に年甲斐も無いことでございます。
「汚ねーな、鼻水ふけよ。いつまでもうっとーしくべそべそしてんじゃんーぞ。それから、俺が今言ったこと、秘密な!誰にも言うんじゃねーぞ!」
相変わらずの口汚さでそうおっしゃった後、ゼフェル様はさっさと執務室を出ていかれました。ですが、このときにはもう私は、この方こそ柄は悪いが旦那様の知己であると信じて疑いませんでした。



果たして5日後に旦那様方が全員無事で帰途に着かれたというしらせが館に届けられました。
ゼフェル様は意外と細かいところに気が着かれる方で、飛行艇から聖殿に報告を行う際に「真っ先にルヴァの館に伝えてやってくれ」と言付けてくださっていたのです。知らせを聞いた私は家族達と万歳三唱し、聖地中の神殿に洩れなく供物をささげてお礼参りを致しました。


そして数日後・・・・・・・。


とうとう旦那様がお帰りになったのでございます。

旦那様はおいたわしいことにかなりやつれて、そしてお疲れになっていらっしゃるご様子でした。
お疲れのせいとは思いましたが、いささか気になったのは世紀のご帰還を遂げられ、しかも今回の脱出劇に際しては少なからずお手柄を立てられたと伺っているのに、旦那様が少しも嬉しそうな顔をされておらず、それどころか、いくらか、不機嫌にさえお見受けされたことでした。

「いろいろと心配をおかけしてすみませんでしたねー」
旦那様はそうねぎらってくださった後で、少し硬い表情をされてこうおっしゃったのです。
「ところで私は明日から3日間休暇をいただいているのですが、その間誰にも会いません。誰が来ても追い返してください。」
旦那様がこんなことをおっしゃるのは初めてのことで、私は耳を疑いました。これまでどんなにお忙しい時でも旦那様はお客様をお断りになったことはなかったのでございます。
「どなたも、・・・でございますか?」
「誰でも、です。」旦那様はきっぱりとした口調でおっしゃいました。
「アンジェリークさまでも、・・・・ですか?」私は念のためお伺いいたしました。もちろんアンジェリーク様は別のはずと思ったのです。
「誰でも、です。女王補佐官でも会いません。」
反論を許さない厳しい口調でした。


翌日。そんな時に限ってアンジェリーク様がいらっしゃってしまいました。
「こんにちは。」
アンジェリーク様は少し額に汗を浮かべて息を切らしていらっしゃいました。お忙しい執務時間の中でわざわざ抜け出して走っていらしたのです。そんなアンジェリーク様を追い返さなければならないとは・・・・私は胸がいたみました。
しかし、お言い付けは守らねばなりません。私はいつもの調子で館に入っていこうとするアンジェリーク様を慌てて呼び止めました。
「あ・・・・あの・・・・」
「どうしたの?」
きょとんとしていらっしゃるアンジェリーク様に、私はおずおずと旦那様の言葉をお伝えしました。
「旦那様がその・・・・今日はどなたにもお会いにならないと・・・・」
アンジェリーク様は当然ながらびっくりされたようでした。
「私でも・・・・だめなの?」
「すみません・・・・その・・・・・どなたもダメなのです」
「・・・・どうしてですか?」
「申訳ありません。理由は私も存じ上げないのです・・・・。」
アンジェリーク様は、しばらく黙り込まれた後で、顔をあげてにこっと微笑んでこう言われました。
「・・・・分かりました。じゃ、帰ります。」
その寂しそうな笑顔を見ると私は自分のことのように胸がぐっと詰まってしまいました。旦那様も本当に罪なことをなさいます。
去りぎわにアンジェリーク様はもう一度振り向いてこう言われました。
「あの・・・・。ルヴァ・・・病気じゃないですよね?」
その言葉に心からの心配がこもっているのを聞いて、私はまた胸が詰まりました。
「はい。その・・・お元気です。」
「じゃ、いいです。私が来たって、ルヴァに言わなくていいですから・・・・。」
そう言うとアンジェリーク様は、今度は振り返らずに、いらしたときのように走り去ってしまわれました。


「アンジェリーク様がいらっしゃいました。」
アンジェリーク様は「言わなくていい」とおっしゃいましたが、私は旦那様にご報告せずにはいられませんでした。ところが旦那様の答えは実ににべもないものでした。
「帰ってもらってください」
旦那様は本から顔も上げられずにそうおっしゃったのです。
「お会いにならないとお伝えしたところ、お帰りになりました。」
私はつい非難がましい口調になってしまいました。アンジェリーク様がどんなにお悲しみになったか旦那様にも分かっていただきたかったのです。ところが旦那様はまたしても素っ気無く
「ならいいです。」
そう言われただけでした。
「あの・・・・・」
次に私が声をお掛けした時には、旦那様はもう書物に没頭されているらしく、私の声はお耳に入っていないようでした。こうなるともう何を言っても無駄なのでございます。
私はため息をつくと、その場を後にしました。


今日で休暇も終わりという日の夕方になって、旦那様はふらりと階下に下りていらっしゃいました。
旦那様はこの三日というものの書庫にこもりっきりで、ほとんどお休みになっていらっしゃらなかったため少し疲れた表情をされていましたが、同時に何かふっきれたようなご様子で、いくらか楽しそうさえお見受けいたしました。
「ちょっと出かけてきます。」
「どちらへですか・・・?」
私の問いに対して、旦那様はにっこり微笑んでこうおっしゃいました。
「聖殿へ・・・・・女王補佐官殿のご機嫌伺いに。」
ちょうどその時に玄関のチャイムが鳴りました。
来客の顔を見ると私はあわてて居間に取って返しました。
「旦那様、アンジェリーク様です。」
「ああ、それは好都合ですね。すぐにお通ししてください。」
そういいながら旦那様は意外にも不敵とも見えるくらい余裕のある微笑をうかべていらっしゃいました。
そして、慌てて再び玄関に飛び出そうとする私を呼び止めると、旦那様はこうおっしゃったのです。
「今日は私達、大事な話がありますので、すみませんがそっとして置いてください。何かあったら声をかけますから・・・・。それと、時間になったら退出していただいて構いません。」


その夜、私はついに一度も旦那様に呼ばれることなく、定刻に退出いたしました。
翌朝、私がキッチンで朝食の支度をしておりますと、珍しいことに旦那様が、キッチンに降りていらっしゃいました。
「ああ、もうお目覚めでしたか・・・ただ今すぐにお食事に致しますから」と申し上げますと、旦那様はいつもどおりののんびりした口調で「そんなに急がなくてもいつもどうりで大丈夫ですよー。」と、おっしゃった後で、心なしか小声になってこうおっしゃいました。
「あのー。実は・・・ですね。夕べアンジェが泊まってましてね。まだ休んでるんですよ。彼女は今日は休みなんで、まだ寝かしておいて上げてください。それで、すみませんが起きてきたら何か朝ご飯を食べさせてあげてくれますかー?」と、こうおっしゃったのです。


つまり、それは、取りも直さず、夕べ旦那様とアンジェリーク様は・・・・・・・。


私は心の中で旦那様の為にガッツポーズを作りつつも、表面は無感動に
「さようでございましたか・・・かしこまりました」と、淡々とお答えしました。そうでもしないとこの内気な旦那様はきっとたいそう恥ずかしがられることと思ったからでございます。



さて、お昼過ぎになってアンジェリーク様はやっと起きていらっしゃいました。
「おはようございます。・・・あの・・・お邪魔してます。」と、さすがにもじもじしていらっしゃるご様子です。
私はわざと何も気が付いていないフリをしてこう申し上げました。
「旦那様から伺いました。夕べ遅くなったのでお泊りになったそうで・・・存じませんでお構いもせず申訳ありませんでした。」
心なしかアンジェリーク様もほっとされたご様子で寛いだ表情になられました。
「おなかがすいていらっしゃるでしょう?今お昼にしますから、おかけになっていらしてくださいね」
そう申し上げると、アンジェリーク様は見るからにつらそうに足を引きづりながらテーブルにつかれました。
お気の毒に・・・・旦那様はきっと初めてで加減がわからずにだいぶ無理をおさせしたに違いありません。
私は疲れが取れるようにと蜂蜜入りのお茶をご用意してアンジェリーク様にお出し致しました。
お茶をお持ちした時に、私はまたしてもアンジェリーク様の真っ白なうなじのかなり高い位置に、痛々しいくらい赤い"おしるし"を発見してしまいました。
これは紛れも無く夕べの旦那様のご狼藉の跡に相違有りません。
私は思わずため息をついてしまいました。旦那様は分別がおありのようでこういうことにしては本当に驚くほど初心でいらっしゃる。いい年をしてこんな目に付くところにこんなことをなさるとは、無茶をなさるにもほどがある。何かそういった書物でも買ってお勧めしたほうがいいのではないかと、私は真剣に考え始めておりました。


幸いなことに無垢なアンジェリーク様は他に比較の対象がないままに「こういうもの」と受け入れてくださっているようで、いつものとおりご機嫌よく蜂蜜入りの紅茶に口をつけていらっしゃいました。


「あのね・・・執事さん。」
ふいにアンジェリーク様が声をかけられました。

「あのね、鰆の黄身焼きとかね、茶碗蒸とか、田楽とかね、そういうの作りたいの・・・・教えてくれる?今日ここで作っていい?」

これはいよいよ本物だ・・・と、私は確信いたしました。お二人の結婚は秒読み間違いなしです。



その日、旦那様はいつもより早くお帰りになりました。
幾分緊張した面持ちでドアを開けて入ってこられると、玄関先で出迎えたのが私一人なのを見て、旦那様はがっくりと肩をおとされました。
「帰っちゃいましたかー。」思わずもらされた言葉には主語がありませんでしたが、何のことかはすぐに分かりました。アンジェリーク様が帰ってしまわれたと思ったのでしょう。ところが何の事は無い、馬車の音が聞こえたとたんにアンジェリーク様は真っ赤になって恥ずかしがられて、「早く、早く、執事さん、先に行って」と、そうおっしゃると、ご自分はキッチンにこもってしまわれたのです。


私がご説明するよりも早く、キッチンの方からからパタパタと元気のいい足音がひびいて参りました。
やはりどうやら待ちきれなくなってしまわれたご様子です。 走ってきたアンジェリーク様は、
「お帰りなさい、ルヴァ!」
そういうと、相変わらずほほをピンク色に染めたまま旦那様に飛びついてほっぺたに「ちゅっ」とキスをされたのでした。





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