宇宙の蝶(ゼフェル)3



あっという間に夜中になった。
吐き気がするほど細かい作業に、だけど俺はのめり込んでいた。

頭の中で俺のイメージは完全に出来上がっていた。

これは、宇宙の真ん中にいる蝶々なんだ。
こいつは自分の意志でここにいて、こっからまっすぐ世界を見ている。
そっから宇宙に不思議なパワーを送りつづけているんだ。
こいつは融通がきかねえから、悪いことや不正は絶対、許さねー。
いつもまっすぐに前を向いて、びしっと頭をあげて、人に弱みなんか絶ってー見せねーんだ。
当然つらいこともある。分かってくれないやつもいる。
だけど、こいつは少なくとも自由で、自分の意志でそれをやってるんだ。
それって、拍手したくなるくらいカッコイイことじゃねーか?

ちらっと時計を見ると、もう明け方の3時だった。
作業はようやく8割を越えた辺りだった。

時間が足りねー。
俺は焦った。

朝までには返さねーと。
あんな泣くほど心配してんだ。引き伸ばすことなんかできねー。
もう一日、あいつにあんなシケたツラさせとくなんて、考えらんねー。

汗だくになって、必死こいて作業して、やっと完成したときは、朝の5時を回っていた。

――宇宙の蝶々は完成した。

正直、細工の巧みさじゃオリジナルに一歩及ばなかった。
だけど、ゲージの中で挑むように羽を広げたイキのいい蝶々は、オレ的にはかなり満足の行く出来だった。
何より、あいつにはこっちがダンゼン似あってる。

・・・・まったりしてる時間はなかった。
俺は慌てて今度は扇本体を分解して、金具を全部磨きなおして、ゆるんでいる留め具を全部締めなおした。
よっし、これで後20年は使えるだろ。
あいつが今までどおりに大事に使えば、もっといくらでも長持ちするだろう・・・・・。

扇を開閉するたびに、そっからはフワフワといい匂いがした。
いつも、あいつがそばにいるときに匂ってくるのと同じヤツだった。

・・・・・ちぇっ!

俺はなぜだか、赤くなり、赤くなった自分にハラを立てて舌打ちした。

調整が終わった扇にとっとと新しい根付をつけると、俺は迷ったあげく、古い方の根付も、ちっちゃいビニール袋に入れて扇につけておいた。 これはこれで大事なものかもしれないもんな・・・・。

朝っぱらからバイクの爆音をたてるわけにもいかねーから、俺は仕方なくアイツの寮まで走っていくはめになった。
まったく、おとといから俺はあの女のせいで、休む間もなく働きっぱなしだった。

寮の前まで来ると、俺は入り口のポストに直したばかりの扇をポトリと落とした。
振り返ると、あいつの部屋の窓に灯りがついているのが見えた。

「げっ・・・もう起きてんのかよ。」

やばい。見つからないうちにずらかろう。
俺は足音をしのばせて、その場を離れた。

まさか・・・・まさか一晩中起きてたってことは、ねえよな?
そうでないことを、俺は祈った。

寮から少し遠ざかると、俺は突然力が抜けるのを感じた。
おとといの夜から一睡もしてねーし、昨日は結局昼も晩もメシを食い損ねた。

ったく・・・・あの、クソ女っ!
俺は元はといえば自分のせいだということを棚に上げて、ロザリアを罵った。
罵ったその後で、俺はちょっと思った。

後で、午後になったらもう一度出直してこよう。

その頃にはあいつのご機嫌も直ってて、またあいつが背筋をビシッと伸ばして、景気良く憎まれ口きいているところが見られるかもしれないもんな。

その相手が俺だったとしても、多分、もうそんなに腹は立たない
・・・・・かどうかは、保証の限りじゃないけどよ。

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