恋のダンスパーティー2

「はぁ〜?ダンス・パーティだぁ?」

手紙の精霊が運んできた甘ったるい花柄のカードを、俺はろくすっぽ読みもせずにくずかごに放り捨てた。

誰が行くかよ、ダンスパーティーなんかよ。
誰にともなくつぶやきながら、俺は頭ん中で去年のクリスマスパーティーの時のことを思い出していた。

パーティー会場であいつは、まじでメチャクチャに光ってた。
青い髪を高く結い上げて、薄紫のフワフワしたドレスを着たあいつは、もうそのまんまでどこかの国の王女様みたいだった。
みんながあいつのことを「きれーだ」「きれーだ」って騒ぎまくって、
先を争うようにあいつにダンスを申し込んで、
そしてあいつは、フロアの視線を独り占めにして、誰よりも優雅に踊って見せた。

そして俺は・・・・俺だけはあいつにダンスを申し込まなかった。
っつか、あいつと話もしなかった。
俺はただ黙って、あいつが貴婦人然として笑ったり、しゃべったり、踊ったりしてるのを眺めていた。



――全然違うじゃねーか――
俺は胸の中でつぶやいていた。
俺とお前が似たものどうしだなんて、何でそんなこと思ったんだろう。
あいつは生まれながらにお上品なお嬢様で、俺とは全然違うし、話も合うわけない。
あいつが強情っぱりの嫌われ者だなんて思ってんのは俺だけで、あいつはみんなに愛されてるんだ。
別に俺が心配して守ってやる必要なんか全然ないし、かえってあいつにゃメーワクなだけだ。

ロザリアが着ているドレスはオリヴィエが作ったものだった。
めちゃくちゃ似合ってる・・・・それも腹が立った。
ジュリアスがロザリアの手を取って、二人は笑顔で踊りだした。
オメーら、仲悪かったんじゃねーのかよ・・・・・何か騙された気がした。

ばっかやろう・・・・

俺は口ん中で毒づくと、フロアを後にした。
もうちょっと待てばお開きの時間だったけど、俺は待たずにずらかることに決めた。 人目につかないように、物置になってる小部屋を抜けていこうと部屋にすべりこむと、中は真っ暗だった。 照明のスイッチを探してごそごそしてると、突然俺の背後でドアが開いた。

「・・・・ゼフェルさま?」
ささやくような声の主はロザリアだった。

俺はぶったまげて思わずカーテンのかげに隠れた。
ロザリアは薄暗がりの中をキョロキョロと見回すと、肩を落として「ふぅ」と小さく悲しげなため息をついた。
背を向けて出て行こうとして・・・・ロザリアはふと室内に戻ってくると、部屋の片隅の椅子に腰をおろした。
そのままドレスの裾をちょっと持ち上げて、ロザリアはいきなり片方の靴を脱いだ。 まるで人形用みたいな小さな靴だった。

「痛っ!・・・」
もう片方のクツを脱ぎながら、ロザリアが急に顔をしかめた。
「どうした!」
やばっ!と思ったときはもう後の祭で、俺はカーテンの影から飛び出していた。
「ゼフェル様!」
ロザリアはびっくりしたような顔をして・・・・そして靴を脱いだところを見られたのが恥ずかしかったのか、慌てて靴を履きなおそうとした。
「ばかっ!いいから見せてみろ!」
俺は慌ててかがみこむと、思わずロザリアの華奢な足首をひっ掴んだ。
一瞬ロザリアの体が震えて、それからあいつは見る間に真っ赤になった。

「大丈夫ですわ!少し疲れただけですもの・・・。」
ロザリアが尚も足を引っ込めようとするのを、俺は力任せに引き寄せた。
見ると、象牙細工みたいな真っ白い足の、小指の付け根から外側の部分が真っ赤に腫れている。慣れない靴で靴擦れでも起こしたらしかった。
なんだか見るだけで俺のほうが痛くなりそうだった。
この足でずっと踊ってたのかよ?そんなのいったい誰のためだよ?
俺は頭に血が昇って思わず怒鳴っちまった。

「ばかやろう!大丈夫なわけねーだろ!何無理してんだよ!痛いなら痛てーって言え!周りに気なんか使うなっ!」

俺は仏頂面のまんま、胸ポケットに挟まってたポケットチーフを引っ張り出すと、それであいつの足の先をつつんだ。
そして自分の靴をぬぐとロザリアの足元に並べた。

「これ履け。引っかけりゃ歩けるだろ」

すると、俯いていたロザリアがぱっと顔を上げてオレを見た。
薄暗い部屋の中、窓から差し込むぼんやりとした月明かりで、あいつはいやにきれいに見えた。
俺はまっすぐ見られなくて目をそらした。

「でも、・・・・私、まだゼフェル様と踊ってませんわ」
ロザリアは顔をあげて、そう言った。



「誰が踊るかっ!お前となんか!」



叫ぶように言うと、俺は裸足のまま部屋を飛び出してた。

何やってんだ、俺は。
何、イラついてるんだよ。
あいつをまた泣かしちまうじゃねーか。


だけど、俺には分かってた。
自分がなんでこんなに苛ついてんのか・・・・・。
俺、本当は、お前と踊りたかったんだ。
ふたりだけで・・・・。

他のやつと踊ってるとこなんか見たくない。
俺とだけ、
踊って欲しかったんだ。


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