恋のダンスパーティー4

黒を選んだのは、 多分俺はあいつにルールを破らせたかったんだと思う。

あいつが自分じゃ絶対選ばない色。
あいつのために誰も選ばない色。
何が飛び出すかわからない掟破りな色、 それを俺はあいつに選んだ。


それにしても一つ問題が残った。
「サイズ分かったら連絡くれよ」
タオが別れ際に言った言葉だった。

サイズ・・・・・・!
女の体のサイズ!
そんなのどうやって調べろっつーんだ!!!!!

サイズ・・・・・これは大問題だった。
まさか本人に聞くわけにもいかねーし (間違いなくぶん殴られる!)
アンジェに聞くわけにもいかねーし (あいつ絶対ロザリアにばらす!)
まさか目分量で女のスリーサイズなんか分かるはずもねぇし(オスカーじゃねーんだから!)

散々悩んだ挙句、俺はとんでもないまどろっこしいことを考えついた。
俺は夜中のうちにあいつの寮の前に隠しカメラを仕込んだ。
とにかく何枚もあいつの写真をあらゆる方向から撮る!
そして、それをスキャンして、PC内に3Dのバーチャルモデルを作成して、身長との比率で全部のサイズを割り出すわけだ。

これはとんでもない壮大な作業だった。
何でここまで!と思うけど、洋服のサイズ違いほどみっともないもんはないもんな。
俺は実に200枚以上の写真をデータ化してモデリングのソフトに放り込んだ。
こうして俺のPCの中に小さなロザリアもどきが誕生した。

あいつ、朝から晩まで俺がこうやって小さなあいつを監禁して体のあちこちを測定しまくってんの知ったら、きっと怒り狂うだろうな。多少後ろめたくはあるものの、俺は毎日家でPCを立ち上げるのがちょっとばかし楽しみにもなった。

こうして七面倒くさい作業の果てに、俺はとうとう、誤差0.01%以内のスリーサイズの身長比の数字を手に入れた。身長はあいつが執務室に来た時に、部屋の棚の高さとほぼ同じであることを確認済みだった。
棚の高さを正確に測って、その数字を掛け合わせると。

・・・・・・・・・・。

俺は絶句した。

すげぇ・・・あいつ・・・・。
もっと小さいと思ってたんだけど・・・、それに、このバランス・・・・。

やば・・・息があがって、呼吸が苦しくなってきた。
アナログで見るよりデジタルで確認する方がコーフンするってのもおかしな話だけど、俺は何だかもう眠れなくなりそうだった。

とにかく、俺は急いで目的の数字をタオに送った。

これで用は済んだわけだから証拠隠滅のためには写真も、データもさくっと処分した方がいいわけだ。 ところが俺はどっちも捨てられなかった。 後姿とか、髪の毛のはじっこしか写ってない写真でも捨てられなかった。
人の写真捨てるなんて、気分悪いだろ?だから・・・・・・。
そして、俺は200枚以上の写真の中で、こっちを向いて嬉しそうに笑ってる1枚を引っこ抜くと、 それを黙ってポケットの中にねじこんだ。



そして、1週間後、 ――タオからドレスが届いた。

それを広げてみて、俺は唸った。

なんとドレスはミニ丈だった。
コルセットできっちりと胴をしめつけて、そこから溢れるようにレースが広がっている。女らしい甘ったるいシルエットを、黒がきっちりと締めていた。

上品で、奇抜で、
淑やかで、我儘で、
子供っぽいようで色っぽいようで、
澄ましてるようで危なっかしいようで・・・。

みんなが知ってるお上品でそつのないロザリアと、 俺の胸の中にいる、意地っ張りでガキっぽいあいつが、これを着れば矛盾なく混じり合うような気がした。
ワルツでもロックでも平気で踊れそうなドレスだった。

とにかく、ろくな説明もしてないのに、タオが作ったドレスは俺の言いたいことを実にぴったりに表現してたし、ある意味俺の思惑を超えてもいた。
中には短い手紙が入ってて、どうやらあいつも俺の作ったバイクにかなりカンゲキしたようだった。


俺はドレスをせいぜいきちんと畳みなおすと、その晩再びこっそり聖地を抜け出し、外から聖地に向けて匿名で発送した。


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