始めて天空の間に入ったとき、私はすぐに感じた。
宇宙はひどく飢えて、孤独にさいなまれていた。
宇宙は愛されることを求めていた。
始めは少し甘く考えていた。
女王をやりながらも普通の女の子として暮らすことが、・・・恋愛することができるんじゃないかと、そんな風な気持ちがないわけじゃなかった。
だけど私はあっという間に気が付いてしまった。
そんなこと言ってる場合じゃない。宇宙は明らかに私を独り占めしたがっていた。
うまく切り替えができるほど、私は器用な性格じゃない。
私は正直言ってルヴァに会うのが怖かった。会ったらきっと気持ちが表情に出てしまう。「好き」っていつか言ってしまう。そうしたらもう、後戻りなんか、できない。
私は前代女王にならって守護聖の前に直接姿を表さないことに決めた。
守護聖へのすべての指示は、ロザリアと相談して、ロザリアがみんなに伝えてくれた。
私はすぐにルヴァが守護聖としてだけでなく実務的にも非常に高い能力を持っていることに気が付いた。 次々と補佐官経由で発信される依頼に対して、あの人は信じられないような速度で丁寧な報告書を上げてきた。
私はその背後に勝手にあの人の愛情を感じていた。
あの人が助けてくれている。力強く支えてくれているのを感じた。
守護聖の間の負担になるべくばらつきが出ないように配慮しなければならないのは分かっていたけれども、それでも私もロザリアも少し面倒なこととなると、ルヴァに頼まずにはいられなかった。
私はあの人が書いたものはすべて写しをとってもらって、オリジナルは自分の部屋に置いていた。
これは私にとってはあの人からの恋文だった。「愛してる」とは一言も書いてないけれど、一行一行にひたむきなものがあふれている。どんな言葉よりも情熱的なメッセージだった。
定例の謁見式は私にとって喜びでもあり、また拷問のようでもあった。
あなたの姿を見られるのは何にも勝る幸せだった。あなたは以前より少し積極的になって、よく発言するようになっていた。時々あなたがすごくいい意見を言ってくれたときは、私は御簾から身を乗り出しそうになるのを自制するのに苦労した。少しでも姿を見せたり、声を出したりしたら、もう私たちがどうなっちゃうのか、自信がなかった。
あなたはいつも自然に平静にふるまっていたようだけど、時折御簾に投げかけられる視線は、私を息ができなくさせるくらい熱いものだった。
切なくて、熱いまなざし。
それは女王候補として接していた時には気が付かなかった、あなたの別な一面だった。
そんな時、私はとても狂おしい気持ちになった。
今すぐこの御簾をかなぐり捨ててあなたのそばに駆け寄りたい。大きな声であなたの名前を呼びたい。強く抱きしめてほしい。昔のように優しく髪を撫でてほしい・・・・・・。
御簾の中で声を殺して泣いている私に気が付いたロザリアは、すばやく議論をまとめると皆に告げた。
「陛下は少しお疲れのようですので、今日はこれまでにいたしましょう。」
私が疲れていると聞いて、あの人はとても心配そうな視線を投げてよこした。
謁見の間を出ると、私はロザリアに言った。
「ねえ・・・・後でルヴァにね、少し休んだら私はとても元気になったから心配いらないって、そう言っておいてね。」
そう言っておかないと、きっとあの人は自分の方が病気になるくらい私のことを心配してしまうに違いない。
「分かりましたわ。」
ロザリアは労わるように私を見るとそう言った。
ロザリアだけは私のルヴァへの気持ちを知っていた。私がなぜ守護聖たちの前に姿をあらわさないかも察してくれていた。
試験直後にオスカーと結婚したロザリアは「自分だけが幸せになって・・・・・」と、自分を責めているようだったけど、それは逆だった。みんなが悲しいとやりきれないもの。ロザリアが愛する人と結ばれて幸せに暮らしていることは私のせめてもの喜びだったし、私はロザリアから家庭内のいろんな小さな微笑ましい出来事を聞かせてもらうのが好きだった。
時には『私たちだったらどうかしら』なんて想像してみることもあった。想像のなかでだけは、自由にあの人のそばにいられた。
そんなこんなであっという間に3年が過ぎた。
私は自分の中のサクリアが急速に衰えてきたのを感じ始めていた。
いちおう軌道には乗ってきたものの宇宙はまだまだ貪欲にサクリアを欲している。―――私はロザリアを呼んで新たな女王候補の選抜を依頼した。