イヴの奇跡 4



3年間―――そんな日々が続いた。

時折襲い掛かってくる執拗な痛みと喪失感に攻め立てられながら、私は表面的にはごく普通に、守護聖としての職務をこなし続けた。
女王アンジェリークは、その細い体を振り絞るようにして宇宙にサクリアを注ぎつづけ、やがて宇宙は癒され、さまざまな綻びは紡ぎ直されて、次第に平穏へと向かい始めた。それと同時に女王のサクリアは急速に枯れはじめていた。

聖地が再び慌しくなり、新女王選出の試験のための準備が開始された。
そして、新しい女王が選ばれたその晩に―――アンジェリークは、聖地から、消えてしまったのである。

聖地中は大騒ぎになった。
今ではオスカーの夫人となっているロザリアは狂ったように泣いていた。
アンジェリークは突然の出奔をこの親友にも告げなかったのだ。

王立研究院とウォン財閥による大規模な捜索が始まったが、アンジェリークの行方はその後も杳として知れず、そしてその後、時が経つに連れて、次第に誰も前代の女王のことを口に出さなくなった。
実際さがして連れ戻したところで彼女はもう女王ではない、いずれは出て行かなければならない定めなのである。探しても詮無いことなのだ。


私は、館にこもりがちになった。 もう、何をする気にもなれなかった。

捨てられたのだ・・・。
そんな風に思った。
何の約束をしたわけでもないのに・・・・。

女王試験が始まった時、私はひそかに期待していた。試験が終われば彼女は女王ではなくなる。そうすればもう一度彼女に会える。試験期間中もずっとそのことだけを考え続けてきたのだ。
ところが彼女はあっさりと消えてしまった。
私が彼女にとって特別な存在だったとしたら、私には何か言ってくれるはずだった。せめて何かしらのサインを残してくれてもいいはずだった。

結局は3年間1人で妄想していただけなのだ。
彼女にとっては結局私も他の守護聖たちと同じだったのだ。
そしてもう二度と、一生、彼女と会うことはできないのだ。


とりあえず、普通にしよう、と思った。
もともと何も得ていないのだから、何も失ったわけじゃない。
だけど私の心の中であなたの存在はあまりにも大きくなりすぎていて、あなたがいなくなった今、そこは大きな空洞になってしまっていた。空っぽの空洞を風が吹き抜けてゆく。心のどこかがいつも痛かった。
私はアルコールを飲むように書物を読みふけった。もう自分のことには何も関心が持てなかった。

アンジェリーク

時間が経てば忘れられるような、そんなものじゃなかった。
あなたは聖地を立ち去る時に、私の心の一番大事な部分を持ち去ってしまった。そしてそれはもう二度と戻っては来ないのだ。

 


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