イヴの奇跡 5



女王でなくなる―――それは普通のアンジェリーク・リモージュという一個人に戻るということだ。

つまりそれはもう誰を好きになっても構わないということ・・・・・・ 私の頭にはまっさきにあの人のことが浮かんでいた。
ルヴァに会える。もう一度女王候補だったあの頃のように、会って、あの人に自分の気持ちを伝えることができるんだ。
この考えは私を有頂天にさせた。 私は再会の瞬間を何度も頭の中でシュミレーションして、興奮して幾夜も眠れないほどだった。

だけど・・・・そんな私の妄想も長くは続かなかった。
いずれ私は気がついてしまった。もしくは最初から分かっていながら気がつかない振りをしていただけなのかも知れない。

会って―――その後どうするの?
女王でなくなった後、私は聖地を去らねばならなかった。
とどまることはできない。例え力は失っていたとしても、前代の女王がいては新しい女王は何かとやりにくいはずだ。権力を二分化させる妙な要因を残してはいけない。ただでさえ女王の職務は精神を消耗するものなのだ。

私が聖地を去るとしてあの人は・・・・・・・。

ルヴァは守護聖としては年齢が高い方に属していたし、在職期間も長かった。
だけど、ルヴァのサクリアは全く衰える気配は無かったし、有効性の面ではむしろ年齢を重ねて更に高まったようにすら見えた。


――ひとりで聖地を去ろう。

まぎわになって私はやっと決断した。
あの人の守護聖としての勤めが尽きていない以上、同じ場所に存在することはできないのだ。
もし「待っています」なんて言おうものなら、あの人は何をしでかすか、なまじ頭がいいだけに予想がつかなかった。
追いたくても追えないようにしなければならない。
完全に消息を消さなければ・・・・・・。


新女王の戴冠式を済ませた翌朝、私はロザリアにだけ、置手紙を書いた。
「黙って行ってごめんね。勤めも終わったことだし、ゆっくりいろんなところを旅して回ろうと思います。オスカーと幸せにね!みんなによろしく。」

早朝、手ぶらで次元回廊に出た私は係員にたのんでゲートを開けてもらった。
ここからめちゃくちゃに乗り継いで、どこかで国内線に乗ってしまえば、そう簡単には探せないはず。

最後に私は振り向いて、もう一度だけ聖地の風景を網膜に焼き付けた。

ルヴァ・・・・・。

さようなら。ルヴァ・・・。

だけど私はまだあきらめたわけじゃないの。
もしこの後自然にあなたの務めが終わるときがきて、それが私の生きている間に間に合えば、必ずあなたに会いたい。おばあちゃんになっていても構わないから。やっぱり、会いたい。

会える。 きっと会える。

私は胸の中でなんども自分に言い聞かせた。
確立はすごく低くて、奇跡みたいなものかも知れないけれども、だけどあきらめない。
きっと、待ってるから・・・・・・・。


私はゲートをくぐると、発信スイッチを、押した。


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