イヴの奇跡 6



「邪魔するぜ。」
ある日、突然ゼフェルが館にやってきた。
案内も待たずに部屋の中まで上がりこんできた彼は、なにやらいかつい機材を私の書斎のテーブルにどんとすえて、設置作業のようなことをはじめた。

「なんですか・・・これ?」
「見て分かんねーのかよ。ラジオだよ。」
ゼフェルは汗を拭きながら、相変わらずぶっきらぼうに答えた。
「ラジオ・・・?」
「説明するのもめんどくせー。いいからこの表に書いてあるとおりの時間にスイッチ入れてみろ。だいたい4時間おきだな。チューニングしてあっから、チャンネルとかいじるんじゃねーぞ。」

作業が終わるとゼフェルはお茶も飲まずにさっさと帰って行った。
彼の突拍子も無い行動には慣れているつもりだったが、今度ばかりはさっぱり訳がわからなかった。
狐につままれたような気持で私は言われたとおりの時間に、いかつい機械のスイッチを入れた。


『みなさんこんにちは。リモージュのトワイライト・リクエスト、今日も聞いてくれてありがとう!
私はご案内役のリモージュです。』

派手な音楽とともにラジオから流れてきたその軽やかな声に、私は雷に打たれたように震えた。

アンジェリーク。

それは忘れもしない、懐かしいアンジェリークの声だった。

『もうすぐバレンタインデーですが、リモージュさんは誰かにチョコレートをあげたりするんですか?』
『うーん。残念ながら今年も全部義理チョコで終わりそうですねー。』
『ところでリモージュさんの好きな男性のタイプってどんななんですか?』
『そうですね、物知りで何でも知ってて、めちゃくちゃ頭がいいんだけど、どっか抜けてて自分のこととなるとからっきし駄目な人ですね。人が良すぎちゃって頼まれると断れなくて損ばっかりしてる人。おせっかいで困っている人のことは放っておけなくて、それでもって故郷とか伝統を大事にする人がいいですね。』
『・・・・なんだか妙に具体的ですねー。もしかして誰か意中の人とかいるんじゃないですか?』
『あはは。ばれました?』
『うそ?リモージュさんの恋人ですか?』
『恋人って言うか・・・・まあ、片思いってヤツで、しかも生き別れになっちゃったんですけどね。』
『驚いたなあ、リモージュさん、結構ヘビーな恋愛経験してるんですね。』
『やだなあ、そんなおおげさな・・・・・そういうわけで、皆さんからのリクエストに加えて恋の悩みにもばんばんお答えしますので、どしどしお便りお寄せくださいねー。』


番組が終わってからも、私はしばらく茫然自失したままでいた。
そして、やおらゼフェルから渡された番組表を見ると、この番組の制作と放送会社を探した。

主星のその放送局は大手ではなかったが毎日数本のレギュラー番組が放映されているようだった。調べれば所在地はすぐに分かるはずだ。

アンジェリークに会える。

この考えは私の体を稲妻のように駆け抜けた。 私は再び体中に生きた血液が流れ出すのを感じた。
終わっていないのだ。私も、私たちふたりのことも。
まだ間に合う。今すぐに手を打てば、まだチャンスはあるのだ。



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