1年後、私は主星に戻ってきた。
この一年、私はテレビもラジオも新聞も通信ネットワークも無いとんでもなく辺鄙な星で、農家に転がり込んで、そこの手伝いなんかをしながらけっこう忙しく暮らしていた。
おじいちゃんもおばあちゃんもとってもいい人たちで、そこでの暮らしは実際捨てがたかったんだけれども、私にはどうしても戻らなければならない理由があったのだ。
私はやっぱりどうしてもルヴァのことがあきらめきれなかった。
聖地は今ごろもう私の捜索はあきらめているだろう。
第一、前代の女王を見つけたところで今更聖地に連れ帰るわけにも行かない。探すだけ無駄なのだ。
こうなってみると、今度はルヴァが下界に戻ったときに見つけてもらう必要があった。
もしルヴァが今でも自分のことを愛してくれているとしたら、聖地を出たら彼は真っ先に私を探してくれるだろう。探すとしたらまずは主星か彼の故郷である。
私は迷わずアナウンサー学校の門を叩いた。
この1年で私は決めていた。全国ネットのラジオ局のアナウンサーになるのだ。
テレビは、ルヴァは見ないような気がした。
ラジオだったら聞く可能性が有る。移動のタクシーの中とか、空港とか、レストランとか、とにかく聴く気が無くても耳に入る可能性があるのだ。それもローカルじゃ駄目。全国ネットでなるべくいろんなところで放送されてるやつじゃないと。ルヴァがどんな辺鄙なところに行っていても私の声が聞こえるように・・・・。
私は必死で勉強した。女王候補時代よりもある意味必死だった。
そうして1年後、私はあちこちのラジオ局に論文並みの分厚い志願書とデモテープを送りまくり、やっと小さいけれど全国へ発信網をもつラジオ局に拾ってもらうことができた。
約1年のアシスタントをへて、私はいよいよ念願のレギュラー番組を持つことができた。
私は嬉しくって、帰って真っ先に写真立てに飾られたルヴァの写真に報告した。これは聖地からただ一つ持ち出した、私の宝物だった。
「絶対、見つけてくださいね。」
私は写真立てにそう言った。
大丈夫、ルヴァならきっとやってくれる。これまでどんな難しい依頼だって信じられないようなスピードでこなしてくれたんだ。ルヴァにはできないことなんて、ない。
新しい一歩。私は幸せな気持ちで眠りについた。
レギュラー番組を持って1年、仕事はどんどん楽しくなってきたけれども、待ち人は一向に現れなかった。
そんな簡単なものじゃないというのは分かっているけれども、やっぱり早く会いたかった。後4、5年の内ならなんとかなりそうな気がするけど、それをすぎたら会っても姉さん女房になっちゃう。更にそれを過ぎたら、本当におばあちゃんになっちゃってから息子みたいなルヴァに会わなきゃならなくなっちゃうのだ。
それはそれで仕方のないことだけれど・・・・・。
聖地の様子が知りたかったけれど、一般民間人となった今ではそれは不可能だった。
主星に来てから友達も増えた。
男友達から「付き合ってくれないか?」と言われたこともあったけど、結局は断ってしまった。
心が揺れなかったかと言ったら嘘になる。だって周り中友達はみんな結婚してるか彼氏持ちで、ひとりもんなんて私ぐらいだし、正直言ってかなり寂しかった。
先日交際を断った相手から
「そんないつまでも昔の男にしがみついていて、このまま一生を送っても君はそれでいいのか?」
と言われた時には、頭をハンマーでおもいきり殴られた気がした。
そうなのだ。それもありうるのだ。というか、その可能性が一番高いのだ。
だけど、私にはやっぱりどうすることもできなかった。
ルヴァの代わりに他の人と付き合うなんて、そんなの無理。あの人に替われる人なんていない。
何の約束もしていなけど、一度も「愛してる」って言ってもらったことはないけれども、だけど私には分かる。あんなに優しく、深く、強く私を愛してくれた人はいなかった。私のためにあんなに耐えてくれた人はいなかった。
私の心の中ではあの人の存在は今でも少しも色あせていない。
今でもやっぱり愛している。
愛しているの・・・・あなただけを・・・・。