<風のライオン2>-Julious

その日は冴え渡るような青空が広がっていた。
・・・・が、私は、この後大嵐になるのではなかろうかと首を傾げた。

ゼフェルが私の執務室にやってきたのだった。しかも自分から。・・・これは前代未聞の出来事だった。


「オメーに一つ相談があるんだ。」
ゼフェルは椅子にかけようともせず、私のデスクにどんと両手をつくと、唐突に語りだした。
「人が欲しい!あのジルオールのヤローのくそプログラム、メチャクチャ大掛かりな上に手が込んでやがって、俺一人じゃどうにもなんねー。」
「部下を付けろということか?」
私の言葉にゼフェルは顔を捻じ曲げてチッと大きく舌打ちした。
「部下?・・・・んなもんいるかよ。俺が欲しいのは仲間だ。」

私はまじまじとゼフェルの顔を見返した。
ゼフェルが言っているのは別段不自然なことではない。確かに人手は必要だろう。
ただ、意外に思ったのは、ゼフェルがそれを自分で言い出したことだった。普段の執務でもゼフェルは他人との協同作業を嫌って決して受けようとはしなかったし、出張でも彼を誰かと同行させるのは一苦労だった。

「・・・・ふむ。 それで・・・私に何をしろと言うのだ。」
「明日、研究院で募集の説明会をする。」
「・・・急だな。」
「時間がねーんだよ。」
「それで・・・人を集めろというのか?」
「そっちはもう手配済みだ。おめーに言いたいのはただひとつ・・・・」
そういうと、ゼフェルはテーブル越しに、私の顔を睨めあげた 「・・・・邪魔すんなよな。」

「待て・・・。」
言い捨てて出てゆこうとするゼフェルを私は呼び止めた。

「ジルオールが改変したプログラムをお前が直すという話は陛下から聞いている。だが私は、それとは別に、研究院のプロジェクトとしてプログラムの修正チームを立ち上げるように指示している。お前を信用しないというわけではない。だが、これは遊びではない。多くの人命がかかっているのだ。万が一の失敗も許されない。お前にその責任が持てるのか?」

てっきり荒れ狂うだろうと思ったゼフェルは、意外にもあっさりとうなずいた。
「・・・・あんたの言うとおりだ。」

「俺は確かに基幹システムなんか触ったこともねー。メカに仕込むプログラムかゲームくらいしか作ったことがねー。俺だって心配なくらいだかんな。あんたが不安に思うのも無理ないぜ。」

そう言った後で、ゼフェルはふと考え込むような表情を浮かべた。

「だけど俺は正直言って、これは研究院の連中じゃどーにもなんねーだろうと思ってる。そんぐらい・・・まるで罠みてーなプログラムなんだ・・・とにかくフツーじゃねぇ。目に見えてる問題を解決するためのプログラムしか組んだことのねーやつにはこれは解けねーだろーと俺は思ってる。とにかく仕事なんかでやってたんじゃぜってー無理だぜ。」
「・・・・・・・・。」
「並行でやろう。どっちか無駄になるってことだけどよ。コトがコトだ、いくら保険かけたってかけ過ぎってことはねーだろ?ただひとつ、そっちのリーダーと話だけさせてくれ。やり方が全然違うからノウハウ共有とかやりようがねーと思うけどよ、切り替えのタイミングとか合わせとかねーとなんねーしな。上手くいった方のを採用することにすりゃいーんだろ?」

これはかなりまっとうな意見だった。私は彼の言葉にうなずいた。
「・・・・頼んだぞ。」
「そりゃこっちのセリフだ。頼むからおめー、邪魔すんじゃねーぞ!」
最後は挑むように人の顔を睨みつけて、ゼフェルは背を向けると肩を怒らせて部屋を出て行った。


「ふむ・・・・・」

その姿を見送りながら、私はふと自分が笑顔になっているのに気がついた。
いつだったか陛下と、遠い将来のことのように語り合ったことが、もう現実の形を持ち始めようとしている・・・。

危惧することはなかったのかもしれない。
時は確実にすべてを育んでいる。

彼は目覚めようとしているのではないか・・・・そんな予感があった。

とてつもない可能性と、危なっかしさを抱えながら・・・・・




【back】  【next】

【創作TOP】 【MENU】