act.2  「お嬢ちゃん」と呼ばないで 

Oscar



その日は新しい女王候補との顔合わせがあると、リモージュから聞いていた。
俺はやや緊張して、女王候補アンジェリークの訪れを待った。
レイチェルとの顔合わせは午前中にすんでいた。普通は一緒に済ませるのだが、この間のこともあるのでリモージュが気を聞かして別々にしたらしい。

「オスカー様、いらっしゃいますか?」
軽やかなリモージュの声がする。
「どうぞ、開いている。」
軽く咳払いして返事すると、リモージュが例のアンジェリークを連れて入ってきた。
「さあ、紹介するわ。炎の守護聖、オスカー様よ。」

「あー!チカン!!」
顔を上げるなりの第一声が、これだった。
「チカン、はカンベンしてくれないか、お嬢ちゃん。」
俺は自然と顔が引きつってくる中、何とか笑顔をひねり出そうと必死の努力を重ねながら言った。
「アンジェリーク、あのね、さっきも言ったけど、オスカー様は別にチカンじゃなくて、ちょっと女の人に優しすぎるだけなの。それが人によっては迷惑なこともあるのは事実なんだけど、悪気はないんだから許してあげて。」
俺はリモージュの説明にも少しばかりカチンときたが、言い返すのも馬鹿馬鹿しいので黙りこんだ。勝手に何とでも言ってくれ、だ。

「今日はね、二人ともこの後のスケジュールは入ってないはずだから、ゆっくり話し合って。オスカー様はね、とてもいい人よ。オスカーもね、アンジェリークは主星で空手をやってたんですって、趣味が合うんじゃないかしら。じゃあ、ふたりとも仲良くね。私は午後の執務があるんで失礼しまあす。」

リモージュはまるで仲人口のようなこの言葉を言い終えると、後はよろしくとばかりに、そそくさと出て行ってしまった。
俺たちは非常〜に重い空気のまま黙りこくった。


「突っ立ってないで、座ったらどうだ、お嬢ちゃん。」
「私、お嬢ちゃんじゃありません!アンジェリーク・コレットって言う、立派な名前があるんです!」
まるですっかり臨戦体勢である。これにはフェミニストのオレも少しばかりむっとした。
「すまんが俺はレディ未満の女性に対してはお嬢ちゃんと呼ばせてもらうことにしている。不満だったら早く女を磨いて立派なレディになることだな。」
「またっ、そんなセクハラ発言を・・・」
「なに?セクハラ?」
「『女を磨け』とか、そういう発言は立派なセクハラ発言ですっ!主星の裁判所だったら9割以上有罪です!」
「そういうつもりで言ってるんじゃないことは分かるだろう?」
「とにかくっ、私のことは名前で呼んでください。」
「このオスカーに名前で呼ばれたいとは・・・・・10年早いな。」
「じゃあ、いいです。」
「どうするつもりだ。」
「名前で呼んでくれるまで、口利きません、返事もしません。話したくありません!失礼します!!」
言い捨てたかと思うと、アンジェリークは「バタンッ!」とドアの音も高らかに振り向きもせずに出て行ってしまった。

なんて意地っ張りな女・・・・・。

俺はあきれて呆然としたまま、アンジェリークの立ち去った後を眺めていた。

同時に、まずいことをした、という思いもあった。
俺もちょっとばかり大人気なさすぎた。女王試験は遊びじゃない。守護聖の一人とでも折り合いが悪くなるということは試験に関しては致命的な問題になる。

何とかしないとならないな。
しかし今しがたのアンジェリークのあの可愛げのかけらもない態度を思い返すと・・・・・・。


たまらなくブルーな気分で、俺は天を仰いだ。





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