act.5 ファースト・キッスなのにっ!! 

Oscar



果たしてアンジェリークは翌日も午後一番でやってきた。
飛び込んできたアンジェリークは目をばしっと見開いて、えらく興奮した表情をしていた。

「オスカー様っ!」
アンジェリークは『ずいっ』と歩み寄ってくると、おもむろに俺の両手を『がしっ』と掴んだ。
(・・・意外と力があるな。それに人には触るなといっておきながら、なんて遠慮のないやつなんだろう。)
俺の困惑をよそに、アンジェリークは相変わらず興奮した様子で俺の手をぶんぶんと振りたてた。

「ああ、オスカー様、すごいですっ!すごいです〜。」
「どっ、どうしたんだ一体。」
「アルフォンシアが、すごく喜んでくれて、もう飛び跳ねちゃって、星も出来て、宇宙全体もすごく元気になっちゃって・・・。」
どうやら午前中はさっそく宇宙に行って様子を見てきたらしい。

アンジェリークはおもむろに真剣な表情になると、俺の目をひたっと見つめた。
「あの・・・・有難うございました。私、その・・・・・ごめんなさい。」
「いいさ。元はといえば俺が悪かったんだ。」
俺は我ながら実に素直にこの言葉を吐いた。
「でも私、すごく失礼なことを言いました。殴ったりしたし・・・・。その後もずっと執務室に行かないで・・・・。ごめんなさいっつ。この間声をかけてもらえなかったら、私きっとアルフォンシアに嫌われちゃってました。だから私・・・・なんてお礼を言ったらいいのか・・・。」

これもちょっと反則だった。
素直さのかけらもない女が、急にしおらしくしてみたら、誰だってぐっとくるだろう?
仲直りできたことでもあり、俺は気が大きくなっていた。つい、いつもの虫が出た。

「だったら・・・・」

俺は彼女の栗色の髪に触れると、前髪をなで上げて白い額に一瞬唇をつけた。
「・・・・お礼の替わりにもらっておく。」

彼女はあんぐりと口をひらいたまま、たっぷり30秒は硬直していた。

「おい・・・」
ちょっと長すぎるんじゃないかと声をかけると、アンジェリークは額を押さえたまま、あっという間に入り口まで飛び退った。
「ひどい・・・・・ファーストキスだったのに・・・・・ひどすぎる。」
「ファーストキッスって、そりゃ唇のやつを言うんだろう?」
「オスカー様のばかあ!やっぱりサイテー!」
アンジェリークはまた例の腹式呼吸でめいっぱい叫ぶと、振り返りもしないで飛び出していてしまった。


・・・なんだ額のキスくらい。リモージュにだったらルヴァの見てないところで20回くらいしたぞ。どうしようもないガキだ。あんな子供を可愛いと思った俺がアホだった。


「・・・・・・。」


俺はらしくなくため息をついた。
そうだ。可愛いと思ったのだ。珍しく素直なところを見せた彼女が。だからキスした。止まらなかったんだ。額にしたのはよく自制心が働いたと褒めて欲しいくらいだ。

「まずい・・・・また明日から来なくなったらどうする?」
俺は再びブルーな気分になった。





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