日曜日の恋人 (2)
日の曜日・・・・・。
外は絶好調にいい天気だっていうのに、私の気分は絶不調だった。
昨日見に行った新宇宙の様子は相変わらずはかばかしくなかった。今回は、気のせいかアルフォンシアまで元気がなかったような気がする。
・・・・・・頑張っているのになあ・・・・。
やり方に問題があるのか、私の育成はどんなにがんばってもうまくいかなかった。
くよくよしても仕方ないのは分かってるんだけど、私の勉強不足のせいで宇宙の育成が滞っていると思うと、責任を感じた。ぐっと気が重かった。
ごめんね、アルフォンシア・・・・。
昨日から何度目か、思わず泣きべそかきそうになったその瞬間、玄関先で レイチェルのにぎやかな声がした。
「アンジェリーク、入るよー!」
待って・・・・。というヒマもない。 ノックをするのとほぼ同時くらいにレイチェルはさっさとドアを開けて入ってきた。
半べそ状態の私を見て、レイチェルはあっさりと笑い飛ばした。
「なにー。まだへこんでるのー?」
「へっ・・・へこんでなんか・・・・。」
「しょうがないなー。じゃあさっ、ねっ、気晴らしいこ!」
「えっ?」
「庭園に新しいお店が出来たらしいよ。おもしろいもの売ってるから是非行ってらっしゃいって、補佐官様がそうおっしゃってたヨ。ねっ、行ってみよ!」
。
「でも、私、ジュリアス様に言われた調べ物が・・・・。」
「そんなのあとでにしなよ!遊ぶときは遊ぶ!さっ、行こ行こ!」
レイチェルに引きずられるようにして庭園にやってくると、そこには確かに ポツンと見慣れない屋台が出ていた。
色とりどりのペンキで塗りたてられたその屋台は、小さいけれどすごい迫力だった。屋台の上はもちろん、タイヤの隙間や壁、屋根の上まで、商品がはみ出さんばかりの勢いで、これでもかと並べられ、それでも溢れ返った商品は、屋台の横に置かれた縁台みたいな木枠の上に、ここもはみ出しそうなくらい乗せられていた。その色彩の華やかなこと明るいことと言ったら、まるでめまいを起こしそうなくらいだった。
「いらっしゃ〜い!!」
突然、吹っ飛ばされそうなくらい威勢のいい声がして、若い男性がカウンター越しににょきっと顔を出した。
突然の大声にびっくりした私達は、思わず「きゃーっ!」と悲鳴をあげて飛びのいていた。
「あー。すまんすまん。びっくりさせてもうた?」
恐る恐る顔を上げてみると、そこにはこの店の主人らしい人物が、満面の笑顔で立っていた。
緑のぼさぼさ髪、小さなサングラスを鼻めがねみたいにかけて、ヒッピーみたいな格好をしたその人物は、私達をまじまじと見ると、またしてもやたら大きな声で叫んだ。
「あっれ〜!あんた達ぃ!」
「なっ・・・なんですかあ、イキナリ・・・」
「あんた達っ!女王候補さん達やろ!・・・えーっと、レイチェルちゃんと、アンジェリークちゃん?」
「ちゃんって・・・・何よいきなり馴れ馴れしいなあ」
お店の人は眼鏡越しにいたずらっぽい目をくるっとさせると、レイチェルに向かって「にかっ」と笑って見せた。
「固いこといいなや。商売は究極のコミュニケーションやで?あんたら知りも知らん相手から安心してモノ買えるか?」
レイチェルを相手に一歩も引かない饒舌っぷりである。
(面白い人・・・・・。)
私は思わずこの怪しい言葉遣いの、一風替わった人物に見とれてしまった。
「さっ、これで話もしたし、コミュニケーションばっちりやろ?さあさ、これからはオトモダチ同士やからな。ゆっくり商品見てってや。欲しいもんなかったら、な〜んでも相談して!今日は無くてもまた来週!人生何事もあきらめたらアカン!千里の道も1歩から!・・・次回までにええもん見繕ってきたるからな!」
「くすっ」
よく回る舌だなあ、と思わず吹き出しそうになった瞬間に、緑の髪の人物は私のほうに向き直ってニコリと笑った。
「よっしゃ、笑ったな。」
「えっ? 」
「うちの店に来たからには、泣きべそかいて入ってきても腹抱えて笑って出てってもらわなあかん! お客さんを幸せにする!商売の基本やからな!」
私は「どきっ」とした。
さっきまで泣いてたのがこの人にはまるで見抜かれてるみたいだった。
びっくりして思わずまじまじと見つめてしまった私に、お店の人は「にかっ」と歯を見せて笑うと、イタズラっぽく片目をつぶってみせた。
ウインクされちゃった・・・・・私は急に恥ずかしくなって、思わず目をそらしてしまった。
「あー。これ、カワイイ!ねっ、見てみて、これ、どうかな?」
レイチェルに引っ張られて台の上を見ると、小さなケースの中に色とりどりの髪飾りが並んでいる。全部手作りみたいだった。
「ほんとだ・・・・。カワイイ!これ、レイチェルにピッタリじゃない!」
「アンジェリークにはコレが似合うと思うよ。」
「えーっ?少し派手じゃない?」
「ダイジョブだって。あっ、ねぇ、これ付けてみていいですかー?」
「ええよ。どんどん試してみたってやー。」
「いいって、ほら付けてごらんよー。」
女の子の悲しい性で、夢中になってアクセサリーを選びっこしているうちに、いつしか私はさっきまでの落ち込んだ気分をケロリと忘れていた。
笑いながらちょっと目をあげると、さっきのお店の人はちょっと離れた位置で、嬉しそうに微笑んで私たちを見ていた。
結局私達は、その日髪飾りを1個ずつ買った。
「良かったね、いいものがあって!帰ろ!じゃーね、お兄さん!また来るねー!」
「おおきに!またおいでー!!」
庭園を出てどんどん寮のほうへ歩いていくレイチェルを、私は慌てて呼び止めた。
「あっ、ちょっと・・・ちょっと待って。」
「どしたの?」
「ごめん・・・あの・・・ちょっと用事思い出しちゃった。先に帰ってて。」
レイチェルと別れると、私は一目散に庭園に駆け戻った。
あのお店の人・・・どうにも気になった。
励ましてくれたんだ。
間違いなく、私がへこんでるのを見て、励ましてくれたんだ。
だって、 来たときの重苦しい気分はきれいに消えていた。何時の間にか、また頑張ろうって気持ちになっていた。
私は息せき切って小さな屋台の前まで引き返すと、おずおずと商品を整理しているその人に声をかけた。
「あの・・・・」
「あれ?さっきの・・・・・。どないしたん?忘れ物?」
私は勇気を振り絞ると、その人に言った。
「お名前、なんておっしゃるんですか?」
「は?」
「話をしたらオトモダチなんですよね?あの・・・お名前を教えていただけませんか?」
最初きょとんとしていたその人は、やがてめがねの奥の目をにこっと細めるとこう言った。
「・・・・・商人さんでええよ。」
「えっ?」
「今日は東に明日は西に、神出鬼没、世界を股にかける男前の商人さんや。」
本名を教えてもらえなくて、私はちょっぴりがっかりした。だけど、商人さんは相変わらずニコニコと嬉しそうな顔をしていて、別段拒絶してる風ではなかった。名前を教えてくれないのは、何か理由か、ポリシーみたいなものがあるのかもしれない。
私もその人ににこっと微笑み返した。
「楽しかったです。ありがとうございました・・・商人さん。」
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