日曜日の恋人 (4)


ある日の曜日、アンジェリークは俺の店でセットの夫婦茶碗を買った。
「これ・・・あんたが使うのん?」
俺の言葉にアンジェリークは何でか赤くなった。
「あ・・・いえ・・・・私じゃないんですけど。」
「ほな、プレゼント用に包装しとくな。」
「あっ・・・いいんです。あの、自分で包みますから・・・。」

アンジェリークが慌てて言うのを聞いて、俺は「ははーん」と思った。
きっと誰かにプレゼントするつもりなんや。
1個は自分用で、1個はプレゼント。
好きな人と同じもん買って、こっそりペアで使いたいという乙女心や。
湯呑み茶碗ときたからにはお相手が誰かも大方察しがついた。

(はぁ〜。あのお人とやったら、お似合いかも知れんわー)
あの優しげで非常におっとりした人物と、目の前の多少気弱げで可愛らしい少女は見るからにぴったりでお似合いやった。

(ふーん。そっか・・・・。)
俺は何となく、心穏やかでなかった。

「どうしたんですか?」
「えっ?」
「商人さん、難しい顔して・・・・どっか具合でも悪いんですか?」
「えっ?あっ?そっ・・・そう?いや、そんなことあらへんでぇ、ほらっ、元気元気、元気もいいとこで! あーっ、今日もいい天気やねえ!」
やけくそで叫ぶと、目の前のアンジェリークが「くすっ」と笑った。

・・・ その顔がまた、めっちゃ、可愛いかった。
今日に限ってこの笑顔が何故だか胸にぐさっと突き刺さるような気がした。


そんな時も時、またしても俺の携帯が鳴り始めた。
かけてきたんは今度は第一秘書やった。

秘書の言葉に俺は絶句した。
「・・・・何やて・・・・?」
電話が切れてからも、俺はしばらくその話を信じられずにいた。
「商人さん・・・?」
後ろでアンジェリークが心配そうに俺を呼んだ。
俺は振り向くとやっとの思いでこれだけ言った。

「すまん。急用ができて・・・・今日はこれで店じまいや。」



「励まし鳥にクレームやて?どういうことや!」
戻るなり俺は第一秘書を捕まえて怒鳴りつけた。
「どうやらICチップの設計ミスのようです。」
「そんなわけあるか!ちゃんと試作品作って、俺も自分でチェックした!間違いあるはずない!」
「耐久力テストが不完全だったようです。使用時間が10時間を過ぎると動作しなくなるんです。」
「何やて・・・・・。」
俺は絶句した。

設計者のおっちゃんは間違いなく一流の技師だった。
そんな不具合があるのに気付かんわけがない・・・・・。

「おっちゃんには連絡したんか?」
「設計者は行方不明です。」
「行方不明・・・・?」
「設計費の入金があった直後に姿をくらましたようです。」
「・・・・・・・・・」


商売やってればこういうこともある。これが初めてってわけじゃない。
だけど、俺がショックだったんは・・・・・メチャメチャショックだったんは・・・・。



「全品回収!」
俺は低く叫んだ。
「社長?」
「聞こえんかったか?全品回収!三日以内! 買ったお客さんには全額返金と相当額のグループ会社どこでも使える商品券進呈!被害相談のフリーダイヤルを直ちに設置してベテランのオペレーターをとりあえず50名貼り付け、足りなかったら即増員すること!それとICチップの不良原因を至急解析するんや!急げ!全部大至急!」
俺の言葉に数人の秘書がバラバラと通信機の方へ走っていった。
入れ違いに戻ってきた秘書が俺に言った。
「社長!チップの設計ミスの解析が終了したそうです。修正版の設計があがってきてます。」

今更・・・・。
俺は思いっきり唇を噛んだ。
いっぺんイメージを落とした商品は、よっぽどのことでもない限り挽回は不可能・・・・それが商売の常識やった。
「工場は押さえてあります。どうしても交換を希望されるお客様もいらっしゃるでしょうから、とりあえず1万個、代品を生産してよろしいでしょうか?」
第一秘書の言うことは正論だった。俺は短く言った。
「好きにせえ。・・・任せる。」

back   next

創作TOPへ