<僕のバレンタインデー3>
家に帰ると、母さんはちょうどキッチンでお茶の準備をしているところだった。
僕は後ろから母さんに声をかけた。
「母さん・・・ 。」
「あら、お帰りなさい。ユーリ。試合はどうだったの?」
僕はちょっぴり言いにくかったけど、意を決して母さんに切り出した。
「あのね・・・僕におこづかいくれる?」
「・・・?どっ・・・どうしたのユーリ?熱でもあるんじゃないの?」
母さんは手に持っていた茶漉しを放り出すと、慌てて僕のおでこに手のひらを当てた。
「違うよ、そうじゃなくって!」
僕は慌てて母さんの手から逃れると、紙袋に移したプレゼントを母さんの前に差し出した。
「これ・・・みんなからもらっちゃって・・・お礼しないと悪いでしょ?」
「すっごーい・・・・ユーリ、これ・・・全部ひとりでもらったの?」
「うん。今日、サッカーで優勝したから・・・応援に来た子がくれたんだ・・・・何か食べ物らしいんだけど・・・でもこんなに食べきれないよね?お母さん食べる?」
するとお母さんはとんでもないとでも言うように目を丸くして両手を振った。
「駄目だめだめ・・・・ユーリ。それはくれた人の気持ちがこもってるんだから、全部自分で食べなきゃ駄目よ。一年かかっても食べなさい。」
「・・・・だって、・・・・こんなに・・・?」
お母さんはまるで何か面白い悪戯でも思いついたみたいな嬉しそうな顔になったかと思うと、僕の顔を覗き込んでこういった。
「 ねぇ〜、ユーリ。お礼はもちろんしなきゃいけないけど、すぐじゃない方がいいと思うわ。お母さんがちゃんと覚えていてあげるから。3月になったら一緒に御礼を買いに行きましょ!ね?」
「・・・・3月なんて・・・遅くない?」
僕は首をかしげた。
母さんはいつも『有り難うとごめんなさいはすぐに言わなきゃ駄目なのよ!』って言ってたのに・・・・。
ところが母さんはにっこり笑うと胸をたたいてみせた。
「いいからいいから。お母さんに任せておいて!」
そして、キッチンを飛び出すと、そそくさと階段を上りながら大きな声で言い出した。
「 ね〜え〜!ルヴァ〜聞いて〜!ユーリったらね〜え〜!」
「なんでお父さんに言うのさ!・・・・・。」
母さんの背中にそう言いながら、僕はわけもなく顔が赤くなるのを感じてた。
・・・・・なんだかすっきりしない・・・・・。
僕はため息をつくと、紙袋を手にのろのろと部屋に戻っていった。
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