<蝦色の実〜エビイロノミ〜> リモージュとルヴァは女王と守護聖という間柄ではあっても、 「え?・・今、何て言ったの?」 「私・・守護聖を辞めなければならなくなったんですよ・・」 「それって・・!!」 「ええ・・確実に衰えてきました・・・もうじき・・貴女でも認識出来るまでになるでしょう」 信じられない・・というように 驚きに目を瞠った彼女の瞳は、たちまち大粒の雫で潤んでいく・・ 華奢な手がさして逞しくもない自分の胸を叩き・・・ ぎゅっと私の袖を握り締める。 解っていた・・・こんな風に泣かせてしまう事を・・ でも・・貴女を護るにはこれが一番だと・・・ 知ってしまっている・・・ 見え過ぎる先見の明を持つ自分をほんの少し・・・恨めしく思った。 ――地の守護聖になぞ、なるものではないですね―― 「お願い!何でもいい・・どんな手でもいいから!此処を出たりしないでっ!!」 「・・・解って・・いるのでしょう?・・・」 まるで小さな娘のように首を振っている・・その度に世界で一番美しい雫が光を弾いて飛び散った。 頼りなげに震えている・・世界に望まれる稀有なる至宝。 だけど、私にとっては・・なによりも・・誰よりもかけがえのない・・・いとおしい、ただ一人のヒト。 貴女はそれほどに慕ってくれるのですか? 今この瞬間でさえ、 彼女の幸せよりも自分の望みを遂げようと感情が暴れている 抑えるのに手一杯で欠片も余裕のない私を・・・ 自分でもこれほど素早く動けたのか、と思う間すらなく身体が動いた。 性急に・・そして乱暴に・・ 息も吐けぬくらいにきつく抱き締めて・・・ 思いの丈を言葉の替わりに口付けで伝えた。 最初で最後・・・二度と逢えなくなるのなら 嫌われてしまった方が貴女の苦しみが減るかも知れない・・・ 頭の片隅でちらりと掠めた思考は・・・ 貴女に触れたいと思う心に丁度良い理由を与えた。 けれど・・・貴女はそうしなかった。 暴れて・・嫌がって・・・そうして欲しいと思う心の裏で、 いつまでも私を望んでいて欲しい・・と、思った私のホンネをこそ貴女は読み取ってしまった。 『 』 激しすぎる口付けを掠めるようなものに変えて私は観念したように囁いた・・・ 頬をそっと包んだ指に伝わる濡れた感触さえも愛しくて・・ 自分が本当に望んでいた未来を・・・願いを・・・誓った。 櫻の舞い落ちるなかで、時が止まればいいと・・思いながら。 主星の小さな町に着いた。 ここならきっと丈夫に育つでしょう・・・ 少ない手荷物の中にいつの間にか紛れ込んだ櫻の実。 大いなる時の流れゆえに今はもうかの地でしか咲かない品種。 もし解ったら本当は禁忌なのだぞと首座の彼は苦笑混じりに言うかもしれない。 貴女へ話すように話し掛けながら・・・長い日々を過ごそう・・・ もし私が死んだら・・この木の元に埋めて貰おう。 彼女への想いと同じように・・尽きないように、降り注いであげるから・・一緒に待ちましょう。 芽吹いたばかりの小さな小さな芽に・・・・そっと私は囁いた。
FIN
|