<幻櫻鬼3>





女王アンジェリークの在位期間は歴代の女王に比べて驚くほど短かった。

産まれたばかりの宇宙は貪欲に彼女の愛を喰みたがり、彼女もまた・・惜しむことなくその背の翼を広げた為に・・だ。

彼女の広げた慈愛の翼に包まれた宇宙は隅々まで穏やかに栄え、健やかに成長を続け・・・引き換えのように彼女のサクリアは貪られ、喰い荒らされていく。

仕方の無いことだと・・誰もが感じた。
女王たればこその宿命だ。
それなくして『女王』の尊称は冠されず、
宇宙の守護もまた・・勤まりはしないのだから・・と。

ただ、地の守護聖の遅過ぎた恋を理解す(し)る者だけが火急の別離に心を痛めた。
何故、運命は二人にせめてもう少し、穏やかな別れを用立ててはくれなかったのだろうか――と。





・・・周りから見ればもどかしいほどにあっさりとした、別れの謁見だった。

互いに想いを交わしあった筈の彼と彼女に、

どんな言葉が在ったのか。
或いは、どんな言葉も無かったのか・・


独り・・謁見の済んだ広間に佇むルヴァに
誰も言葉を掛ける者は居なかった。



そして・・
連綿と繰り返される営みを違えることなく
新旧の女王はその交代を終え、
宇宙は新たな主と共に次第に緩やかな欲求へと変わりながら今日も健やかに廻り続けている。

取り残され・・忘れ去られた恋は平穏な日常に呑まれ、掻き消えたかのようにみえた。


しかし・・・確かに変化は・・・在った。




地の守護聖にして知識の護り手である彼は、一見・・何一つ変わっていなかった。

元々・・人当たり穏やかにして性急に人と交わることを不得手としていた彼である。
だから、聖地勤めの殆どの者は気付きもしなかっただろう。

だが、・・心の裏の裏、その芯ともいえる部分に柔らかな障壁を築いて何者をも踏込ませなくなったのだ。

例えばそれが、硬い壁だとでも云うのなら・・
かえって叩き壊すことは容易かっただろう。
しなやかで在ればこそのそれは・・・
―――完全な拒絶だった。

傍目には・・
何一つの異変さえその表には出さずに柔らかく全て受け入れ、穏やかな微笑をもって、
ごく普通に応答をし、執務もそつなくこなすが、その実・・全ては彼の心の上っ面だけを引っ掛かる事もなしに滑っていく・・

彼を良く知る者程、ルヴァの創り出す・・・
その、僅かな差異を感じて痛々しく胸塞ぐ思いを募らせた。
状況を愁いた同僚達による、全ての働き掛けはお世辞にも果々しいとは云えず・・・
捩じ伏せる事も懐柔する事も・・・
結局は成功しなかった。

それほどにルヴァにとって恋のもたらした疵は深いのか・・ならば、これ以上の介入はその疵をより抉る事にしか為らないのではないだろうか。
―――思案の末に・・
彼等は、全ての解決策を時の流れに委ねた。そっと見守る事をこそ最上の策と信じて・・





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