3.〜密約〜





陛下・・アンジェリークが、感じた異変を誰に相談すればいいのか・・
彼女の言葉によると、自分からサクリアが消えてはいないけれど・・確かに減っているのだそうだ。
自分が感知した限りでは凶兆では、なさそうなのだが・・
もしかしたら、自分の所為で我知らず、彼女に何かのっぴきならない事態を引き寄せてしまったのかもしれない・・、とルヴァは、生きた心地がしなかった。

二人の逢瀬を未だ秘しているこの段階では、
首座に知らせるなど、持っての外・・である。
知識では、何者の追随を赦さないルヴァではあったが、女性のメンタルその他のことについては、
如何せん・・知識だけではどうしようもない、部分があった。

・・・真っ先に浮かんだのが、ロザリアだった。




「・・・と、云う訳ですわ。安心致しまして?」
「そ、そう云う事だったんですかー」

慌てふためいて転げるように部屋に飛び込んだルヴァの胸は、ロザリアの言葉によってどうにか凪ぐことが出来た。

入れ替わりに新たな喜びの細波が、心を支配する。
自分が、先に知ってしまったけれど・・、
順番なんてどうでもいい。
あの人は、どんな風に喜んでくれるだろう・・
頬を染めてはにかむ様子が、目に浮かぶようだ。

遠くない未来に私達の幸福が、咲こうとしている・・
その芽吹きをロザリアは知らせてくれたのだ。


「ありがとうございます。それと・・・すみません。」


彼女が、自分達の背を押してくれたから・・
今の二人があって・・
明日の二人をもまた、支えてくれると彼女は、
精一杯のさり気なさを装いながら、
自分に伝えてくれた。

何よりも大切な親友をこんなに頼りない
私に預けるのにはどんなに心痛したか知れない。
それでも、彼女は・・
失う痛みを堪えて私を信じてくれたのだと・・・
心の底からありがたく思った。



「あら、申し訳ありませんけれど、何の事だか私、要領を得ませんわ・・
それよりもルヴァ?
御用がお済みになったのでしたら、 行かなければならない所があるのではなくって?
わたくしもジュリアスにこの件で相談しなければいけませんのよ、そうそう時間を取られるわけにも行きませんの。」

ツン!と済ました答えには、いくらかの棘もまぶされているかもしれない・・

どうやら、礼も詫びも云わせては貰えないらしい。
この頃は成りを潜めていた意地っ張りな性格も 彼女の事となると、わりあい簡単にぶり返すもののようで・・
それでも、微かに上気した頬が、きちんと隠してるつもりの照れをちゃんと伝えていてる。

「そうですか・・では、陛下にご報告しなければならない事がありますので・・ これで失礼いたしますね。」

勿論、ロザリアの為にも・・
それに気付いている事などおくびにも出さない・・
内心、込み上がってきた微笑ましさをかみ殺すのにかなり苦労しなければならなかったけれど。

足早にドアへと向うルヴァに、 すれ違いざま、囁きが届いた。

「よろしいこと?宇宙一、ですわよ。」

「はい。宇宙一、ですね。」


例え立場が逆転しようとも、
いかなる時間が過ぎようとも・・
私達には、失えないもの・・護りたいものがある。
それは、共通の願い。

宇宙よりも大切な黄金色の微笑

誰が?、とも・・
何を?、とも・・
確かめなくても解っているから。

思いの形は異なろうとも
彼女の幸を念じる強さは同じ・・

そう・・宇宙よりも、
彼女を優先してしまうくらいには。
お互いが、たった一人の同志だと・・
訊き返さなくとも知っているから。

互いにクスッと共犯者の笑みを漏らすともう、次には、なんでもない顔をした二人だった。

黙ったまま、補佐官に目礼をしてルヴァは、
愛する女王の元へと向う為に執務室を後にした。

パタン・・と来た時とはかけ離れた静かさでドアが閉まる音がして、またロザリアは一人になる。
でも、知っているから・・独りではないと。

寂しくないと言ったら嘘になるわ、
まだ、少しくらいは貴女の傍に居られると思っていたから。
出来るならこのままでずっと一緒に居たかった・・このつながりを手放したくないけれど・・
貴女の心が、わたくしに満ちてくれるから・・
だから平気・・。


貴女がわたくしにしてくれたいろんなことを
今度はわたくしがするわ・・
出来る事を精一杯。


 

back    next


【まちこです。様TOPへ】