<双真珠3>


あの晩も眠れぬままに一人、特に宛てという宛ても無くそぞろ歩きをしておりました。

いつの間にか・・・湖のほとりにまで着くと、
そこは、何か異世界めいた月明かりが・・
蒼く冴え冴えと輝いて
湖面を照らし出しておりました・・
水面に手を伸ばせば、
手に取れるかのようにくっきりと映された月。
けれど決して触れ合う事のない・・・

まるで、今のわたくし達のよう・・
あまりに哀れな月光の写し身。



よく、彼女とここで息抜きと言っては、いろんなお喋りを楽しんだ・・
偶然、ここで行き合うと、
わたくしに逢いたくて滝に向かってお祈りをしたんだと言って、はにかんだ笑顔を見せてくれていた。
祈りが通じて嬉しいとはしゃぐ姿が今でもはっきりと思い出せる。
今はもう・・誰よりも近くて遠い・・恋しい人。



もしも、わたくしがここで祈りを捧げたのなら、この想いを彼女に届けることが出来るだろうか?・・

ふと、
そんな子供の戯言のような考えが浮かんだのです。
それは、とても魅力に溢れた案に思われました。

どうせ・・何も変わらなくとも誰が見ている訳でもないのですし、
それこそ偶然でもなんでもいい・・得体の知れないものに縋ってでも彼女に逢いたかった・・。

例え貴女の心がわたくしに向いていなくても・・
逢って、この胸の内を告げてしまいたい。

わたくしは、湖の淵に跪くと、誰も居ない水面に向かって祈詞を奉げました。

「水よ・・わたくしに最も近しい、慈悲深き水よ・・どうか、わたくしの願いを聞き届けて下さい・・
私の愛するかの人の心の中に、ほんのひとしずくでもいい・・わたくしの事を想って下さるお気持ちがあるのなら・・どうか・・わたくしの前にその姿を現せて下さい。」







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