<双真珠5>
―――女王は恋をしてはならない。
わたくしは知識として存じておりました。
この逢瀬が禁忌である事を・・
けれどもそれが破られた時にどんな結末を呼び込むのかまでは知りませんでした。
いいえ、知ろうとしなかった・・
ただの古めかしい因習のようなものだと・・
恋に溺れる者の身勝手さで、
そう・・思い込んでいたのです。
貴女は、総てをご存知だったのでしょうね・・
わたくしを受け入れて下さったあの夜の透き通るような微笑の意味が、今なら感じ取れるのですから・・
「貴方の故郷を見てみたかった。」
ポツリと零した囁きにわたくしは、
何時とは云えずとも、必ず叶う・・と己の信じるままに応えました。
「わたくしのサクリアが先に尽きたのなら、たとえ次代の守護聖の召使になってでも、ここで貴女をお待ちしましょう・・
もしも貴女が先に尽きたのなら・・その時は、
誰に憚る事もなく・・貴女を娶り、
必ずお連れいたしますよ。」
貴女は何も言わずにただ、わたくしにもたれ掛かってふんわりと微笑んだ・・・
微かに哀しみを混ぜ込んだ嬉しそうなその笑みは、
秘する恋を憂いたものではなく、
叶わぬ願いに向けられたものだったのですね・・
皆で愛でるべき・・手折ってはならぬ花を摘み、
天を包むべき・・もいではならぬ翼をもぎ取った罪は、確実に贖いを求めているのだと
わたくし一人だけが愚かにも知らずにいたのです・・
貴女を失うその瞬間まで・・。
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