〜Blue Blue Eyes〜

3.マーガレット(1)
あの日から、もう3日。わたくしとあの子はもう3日も顔を合わせていない。
この飛空都市に来た頃ならいざ知らず、1回目の定期審査をすぎた当たりから、朝食や夕食の食堂で、育成を頼みに行く聖殿で、1日に何度も顔を合わす機会があったのに・・・。
今日も朝食の席にあの子はいなかった。同じ特別寮の隣の部屋で生活しているというのに・・・。…わたくしは、あの子に逢いたいと・・・思っているのかしら・・・。
育成を行うため聖殿へと向かいながら、ふとあの子の笑顔が浮かぶ。何にも捕らわれずまっすぐに純粋な笑顔を向ける同じ17歳の少女。そして、同じ女王候補のあの子。

聖殿の中央に位置する階段を昇ると、目に飛び込んでくる金色の髪。
今し方まで考えていたあの子が3日ぶりに目の前に立っていた・・。
この機会を逃してはいけないとそう思っていたはずなのに・・・。今日こそちゃんと言わなければと
この間、この子にもらった薔薇の花のお礼と・・そして、わたくしが取ってしまった行動を・・きちんと謝りたかった。
「あ・・。」
ちょっとだけ驚いたように、そして少し困惑したように・・若草色の瞳がはっきりと見開かれるのを・・
わたくしは不思議な気持ちで見ていた。・・言葉を紡ごうとするその心が少しずつゆっくりだけど確実に小さくなっていくのを感じながら・・。
それはまるで長い長い時間のようで一瞬だったのだろう。
「あ。アンジェ!来てみてよ!マーガレットがきれいに咲いているから!。」
下に位置するであろう中庭からどうやらロザリアは死角になっているらしい。見えるアンジェリークにだけ声をかける最年少の緑の守護聖。その声に導かれるように振り返ってそして、いつもの笑顔で「すぐ行きます!」と明るく返事をすると、ロザリアの横をすり抜けて階段を駆け下りる。
少しだけ曖昧に、作ったような笑顔を残して・・・。
・・・完璧に、嫌われてしまったのね、わたくしは。そう、よね。突き放したのはわたくしだったのですもの。素直になれなくって、いつもまっすぐに向けてくる笑顔に嫉妬して。仕方のない事だわ・・。わたくしは女王候補。女王になるために、ここに来ている、そしてあの子は同じ女王を目指すライバル。今までと同じじゃない・・。飛空都市に来る前と同じ。わたくしは女王候補として、最良の事をするだけだわ。・・・遊んでいる暇など、友人を作っている暇など今のわたくしにはないのだから・・・・






コンコンコンコン・・。
ノックをしても、部屋の中から返事はない。今週に入ってからまだ1度の開かれた事のない執務室。
今のフェリシアがもっとも望んでいるサクリア・・炎の力。
そういえば、とふと女王補佐官のディアに言われて事を思い出す。
『試験期間中であっても、宇宙にはサクリアが必要です。そのためたびたび聖地に戻り執務を行う事もあるでしょう』と・・・。
オスカー様は聖地に戻っていらっしゃるのね、きっと。・・・
少しだけ、困ったような表情に戻るが、瞬時に思考を切り替えると、さっと身を翻して、研究院へと足を向ける。
オスカー様がいらっしゃらないのなら、それを補う形で、育成を進めなければならないわ。・・少し、育成を変えないといけないわね。
そう、この試験を精一杯、力の限りやりきる事。それが今のわたくしの存在理由なのだから。
研究院へ向かい、大陸へ降りるといつもと同じように、整然として毅然とした町並みが拡がる。今日も大陸は平和そのもの・・・。でも、と思う、確かに穏やかで幸せそうな町の人々に少しだけ違和感を感じる。・・・・強さ。今よりもより高く、より上へとそう思う強さの気持ちが今は足りない。現状に満足しているだけではだめだと、この大陸にすむ全てのものが思っていても、その思いはまだ弱くて・・、オスカー様が帰ってくるまで、他の何かで補わなければならない。オスカー様が戻ってきて、炎のサクリアがこの地に降り注いだときに、十分にその力を発揮できるように・・・。

一通り、大陸をまわり、現状の望みのサクリアをパスハに提示してもらって、明日からの育成方法を考えているうちにどうやらかなりの時間がたっていたらしい。
ロザリアが寮の自分の部屋に付く頃には、当たりはあかね色の夕焼けに染まっていた。



自分の部屋の扉に目をやれば、普段見慣れぬものがその扉に置いてあるのが見える。
いぶかしげに近づくと、そこには1枚の手紙と1本の花・・マーガレット・・。
誰から・・かしら?
そっと、扉に挟まれた手紙を引き抜くとばあやの入れてくれたロイヤルティーを片手に、かさりと手紙を開く。
『青い瞳のおじょうちゃん。
 今は、フェリシアに炎の力が望まれているのだろう?育成に関しては、完璧なお嬢ちゃんの事だ、何度か足を運んでくれていたんだろうな。
 すまない。どうしても、行かなければならない所があったからな・・。
 それでだ、この間は断られたが、どうだろう。今度の日の曜日にお詫びを兼ねてお誘いしたいのだが・・。
 一緒に来てほしいところがあるんだ、本当は直接伝えたかったんだが。早いほうがお嬢ちゃんも予定がつけやすいだろう?
 日の曜日、迎えに行くからできれば、動きやすい服装で待っていてくれ。

 それから、これはお嬢ちゃんへのお土産だ。まだ5分咲きだが・・今のお嬢ちゃんにぴったりだろう?
 早く、大輪の薔薇のようなお嬢ちゃんに逢ってみたい気もするけどな・・。』
・・マーガレット・・先ほどの聖殿での出来事がふと頭をよぎる。そうね・・。わたくしまだまだ・・・人として足りないところだらけの・・・5分咲きの花と同じなのかもしれない・・・

 

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