〜Blue Blue Eyes〜

5.マーガレット(3)
『チャンスは自分で作ること』
オスカー様はそう言われた・・。確かに、アンジェリークは何度も何度もわたくしと接点を持とうとしてくれた。・・・それをわたくしは気付いていなかった。いえ気付いていたのに、自分の殻から抜け出そうとしなかったのね。
今までと違う、真っ直ぐ向けられる視線に・・・戸惑って、臆病になってしまって。
嫌われてしまっても仕方が無かったと、そう思う。・・・でも、もう1度だけ、今度はわたくしの方から・・・歩み寄ってみたい。

しかし何日も考えては見た物の、今までにこんな経験をしたことのないロザリアにとって、人に、他人にどうやって接していいのか全く解らない、そして、やっぱりそれを見抜いたオスカーに、執務室に育成を頼みに行って、こう告げられた。
『特別なことをしようなんて、思わない方がいい。自分に出来る何かできっかけなんていくらでも作れるさ。・・・お嬢ちゃんが今まで誰かにしてもらったことで嬉しかったことを思い出してみるといい』
わたくしが、嬉しいと思ったこと?・・・・そう考えれば微かにだが、糸口が見つかった気がする。
わたくしに出来る、わたくしなりのやり方で・・・・。







扉の前に立つこと5分・・・。結局、考えて考えて気が付けばもう今週も終わってしまう。
今日は金の曜日、この機会を逃してしまったら、きっと、誤解は解けないまま深い溝だけが残してしまう。そう思い立ってアンジェリークの部屋の前まで来たものの、あと1歩が出ない。
この扉をノックすることがこんなに緊張することだったなんて・・。今まで、時期女王湖補に決まったと聞いたときも、初めて聖地を訪れたときも、守護聖様達にあったときもこれほど緊張したことは無かったのに・・。
ふわりと廊下を風が流れる。今日のために自分の手で摘んできた白い花が揺れる。大丈夫とその花言葉と同じように上手くいくと伝えてくれるように・・。
その姿に背中を押されるように扉ををノックしようとすると、カチャリと小さな音を立てて扉が僅かに開かれる。
「あ、あの。・・」
「え?・・ロザリア・・?」
扉の向こうから、驚いたような声が飛び込んでくる。
ここ1週間ほとんど顔も見ていなければ、声も聞いていなかった、その声がとても懐かしく思えて・・。
「こ、こんな時間に・・。ご迷惑かと思ったのだけれど・・・。」
そういうと、ゆっくりと扉の開かれる音が聞こえる。視線を上げることが出来ないまま、足下で開かれた扉を確認すると、思い切って手の中のマーガレットの花束を差し出す。
「あの、わたくし・・。その・・。これ、」
今までに見たことのないロザリアの様子に、戸惑っているのだろうか。長くて短いその時間が無言の圧力のようにロザリアにのし掛かる・・。やっぱり・・顔も見たくないほど嫌われてしまっていたのだろうか・・。そんな弱気な感情に流されて、差し出した腕が戻ろうとしたその瞬間。
「ロザリア〜!!」
伸ばした腕ごと抱き留められたような間隔に、何が起こったか解らなかったそのロイヤルブルーの瞳に・・・輝く黄金の光が・・・見えていた。
「ちょ、ちょっとアンジェリーク・・。」
ようやく抱きつかれたのだと頭が判断したとき、同じようにアンジェリークの手の中に真っ白のマーガレットの花が握られていることに気が付いた。
「ロザリア、ごめんなさい。私、とっても自分勝手だったと思うの。ロザリアの気持ち全然考えないで、自分のこと知ってもらおうとばかりして・・・。」
「アンジェリーク・・。そんなことないわ。・・わたくしの方こそ・・。自分の殻に閉じこもってあなたの気持ち・・考えようとしていなかったわ・・。ごめんなさいね。」
ゆっくり、視線を合わせて・・。お互いにお互いの手の中の白い花束を見つめてそして、しばらく笑いあって・・。

「あ!私ったらまたこんなところで・・、ねぇ中に入ってロザリア!」
「えぇ・・。お邪魔するわ。」
ぱたんと扉が閉まって、初めて入ったその部屋は、アンジェリークによくにて、ピンクを基調とした優しい空間だった。
中央に備え付けのテーブルに向かい合って座ると、「あ、ちょっと待ってね!」というアンジェリークがしばらくして持ってきたミルクティを飲みながら・・。初めてきちんと向かい合って話をはじめる。
「私がいれたから・・味はちょっと自信ないんだけど・・。」
「そうね・・。少し甘すぎるけど。味はそんなに悪くないわよ。甘さは好みの問題もあるし、何度か作るうちに解るようになってよ。」
ほんの少し前まで、あんなに緊張して、あんなに怖がっていた心が簡単に解けていく。また、あなたに助けられたのね、わたくし。

「ねぇ、アンジェリーク。」
そっと今まで後ろに隠していたその包みを差し出すと、ちょっとだけうつむき加減で続ける。
「これは、わたくしが飛空都市に来る前から使っていた物なのだけれど、育成するときの役に立つのではないかと思って、昨日もわたくし、大陸に降りてみたの。その時少しだけあなたの大陸を見せいて頂いたのだけれど・・。多分この本が参考になるのではないかと思って・・。」
「ロザリア、いいの?私がこれ読んでも・・。」
「えぇ、もし迷惑じゃないのなら受け取って頂けるかしら。この花束と一緒に・・。」
「もちろんよロザリア!ありがとう。私もねロザリアに渡したい物があったの。」
すっと差し出されたそれは、小さな絵本だった。
「子供っぽいって笑われるかもしれないけど、飛空都市に来るときに持ってきたものなの。私がとっても大好きなお話で・・。ロザリアもう知ってるかもしれないけど、読んでもらいたくって、この花束と一緒に・・。」
「ありがとう、アンジェリーク。・・・大事に読ませて頂くわ。」
明日は育成の行われない土の曜日、初めて訪れた小さな感動と共に・・2人の女王候補は時間を忘れて話を続ける。少し甘めのミルクティと共に・・・。

一重のマーガレット、花言葉は”真実の友情”
 

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