〜Blue Blue Eyes〜

7.聖地

「思ったより酷いな・・・。」
その惑星に降り立った第一声。
聖地からの急な要請で降り立ったのは、宇宙の中でもかなりの辺境の星の1つ。
つい先日も、この近隣の惑星に異変が起こり、住民達を一時安全な星へと移動させたばかりだったが、どうやら今回はそれだけで事が終わりそうにない。
「オスカー様。」
隣に控える、王立派遣軍の派遣部隊長が少し震える声で尋ねる。
「まずは住民の惑星外への避難を優先に行え。それから、調査部隊が一緒に来ているだろう。何名いる?」
「はい。7人です。」
「7人か・・・・。ではその中から、3名は俺と共に、残りの4名はここで待機して分析に当たれ。」
「解りました。」
部隊長の号令と共に50人近くの軍人が一斉に動き出す。
この星の住民達を救うために、・・・・そして願わくば、この星自体を救えることを願って・・・。


住人の移動を部隊長に任せると、3人の調査部隊員とともに、その場を離れる。
向かう先はこの惑星の中心地。
つい先頃まで首都として栄えていたはずの街。
其処には人の存在どころか、かつてここに街があったことなど想像も出来ないほどの荒涼たる砂漠が広がっていた。
足下の土を拾い上げれば指にかかることもなくさらりとこぼれ落ちる砂の雫達。
大地の涙のように風に舞い、飛び去るその姿が、その景色が全てを物語る。
「オスカー様。この星は・・・。」
「そう、だろうな・・、今は。・・・・見込みは?」
「詳しい分析を行わなければはっきりとした事は言えません。ですが、星の中心の最深部、この地表の地下15000メルテ付近に僅かに磁場の流れが観測できます、極々弱い反応ですが、それもいつまで持つかは・・。」
ぐっとこぶしを握る調査員達の肩を軽く叩いて、無理にでも作り出した笑顔で答える。
「なら、望みは捨てちゃいけないぜ?・・人の思いは何よりも強いんだ。俺たちがそしてこの星に住む住人達が思いを消さない限り、この星はそれに答えてくれる。時間はかかるかも知れないが。」
「そうですね。・・・・僕達頑張りますよ。少しでもこの星が、同じような状況にある惑星達が次期女王の選出まで命を繋げるように。」
答えるように足下から無数の砂が舞う。・・・・自分も頑張るからと・・・。
願う人の心が有る限り、生き続けるからと・・・・。








星の人々を、主星近くにある、惑星へと移動させそのまま聖地へと向かう。
ゆっくりと開かれた次元回廊を抜けると、其処には常春の聖地。それでも、緑の木々は女王試験が始まる前と変わらないのに、雲のない空は同じように高いのに、肌から感じるのは冬の気配。
忍び寄る最後の時を、この地に有る物は知っているのだろうか?
女王補佐官であるディアの元へ報告に向かいながら、ふと飛空都市の明るさを思い出す。
生まれたばかりの大陸と元気な女王候補達。長い時間を其処で過ごしたせいなのか、いつの間にかその明るさが活力が普通になってしまっていることに気づく。
「ディア。・・惑星からの住民の移動は完了したぜ。あとは、星の持つ力とそれと・・・・新しい女王に任せるしかないんだろう?」
いつもと同じ穏やかでそして少し悲しそうな笑顔でゆっくりとうなずく彼女。
「お疲れ様でした、オスカー・・。いつも急に呼び出してばかりでごめんなさいね。」
「いや。これも俺の、炎の守護聖の任務だと思っているからな・・。それよりも陛下は平気でおられるのか?」
「えぇ。今はまだ・・・・。新しい大陸の発展は、陛下にも力を与えてくれているようですよ。」
「そうか・・・。じゃあ俺は飛空都市へ戻る。ジュリアス様に何か伝えることは?」
「大丈夫。・・・今日の報告を・・・・。」
「解った・・ディア。大変だろうが、君も気をつけてな。」

聖地にある王立研究院から飛空都市にある王立研究院へ・・・
徐々に肌に伝わる感覚が、恐怖から歓喜へと変わるのが解る。
飛空都市は、新しい大陸達は・・・・目覚めの喜びの時を待ちわびているように感じる。
それは、新しい女王が生まれると言うこと。
そして・・・・
星々が瞬く次元回廊が切れると、機械的な明るさが視界を覆う。
「ご苦労だったな。オスカー。」
「ジュリアス様!ただ今戻りました。」
「お疲れ様でした〜。オスカー。」
「ルヴァ。来ていたのか?」
「えぇ。先ほどジュリアスに会いまして・・・私も一緒に着いてきたんですよ。」
話ながら、次元回廊のある研究院の最奥の部屋から出ると、3人の顔つきが変わる。
「今回は、今までの中で特に酷かったと聞いているが?」
「はい。惑星そのものの活動自体が止まりかけています。詳しい調査結果が出るまで断定は出来ませんが、今後このような惑星は辺境から中心部へ広がっていくものと思います。」
「やはり、滅びの時は避けられない・・・のですね。」
「そのための、女王試験だ。我らは、少しでも陛下の負担を減らし、少しでも早く、そして慎重に次期女王を選ばなければならぬ。」
誰もいない廊下でかわされる会話。
程なくロビーに近い場所に着く。
「あの〜。実はこれから、リュミエール達にお茶会に誘われているのですよ〜。どうしますか?」
「私は、遠慮しておこう。女王候補達も来るのだろう?・・・・それに、今日の事、パスハとも話し合わなければならぬからな。」
そう言って、パスハのいる主任研究員の部屋を目指すジュリアスを見送って、ルヴァとオスカーは研究院を出た。外には、柔らかい午後の木もれ日。
命の輝きに満ちる飛空都市の青空が眩しかった。


 

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