SACRIFICE 2〜前日〜
 


「では、アンジェリーク。明日の朝、9時に・・。」
「はい。シスター。・・・。」
「今日は疲れたでしょう、色々と・・。ゆっくりとお休みなさい。」
「ありがとうございます。お休みなさい・・。」
パタンと扉が閉まると、ゆっくりベットの縁に腰掛けて小さくため息を漏らす。
「ほんと・・疲れたな。」
朝から、禊ぎをして、肖像画を描いてもらって、そして・・・最後の家族との会話をして・・。
「でも・・ママったら最後まであの話することないのに・・。」
くすくすと、小さな笑いが漏れる。
「それだけ、嬉しかったのね・・。ママもパパも・・。」

私が小さな頃から、ママはいつだって私が生まれた時のことを話し続けている。
「ママがパパと結婚してまもなくの事よ・・・。」
「ママ・・。またその話なの?」苦笑い気味で応えるけど・・。でも私もこの話を聞くのが嫌いではない。
小さな頃から、両親と、家族と過ごす時間以上に私は、教会で過ごすことが多かった。
だから、こうやってママが話をしてくれるこの時間が大切でそしてもっとも穏やかで優しい思い出の1つなのだから・・。
「ふふ・・・。いいでしょう?本当に驚いたのよ・・。」
「ママの夢に・・女の人がでてきたのでしょう?」
「そうよ・・薄桃色の緩いウエーブのかかった長い髪に、プラム色の瞳がとても美しい人で・・。こういったのよ?」
「貴女に、女の子を授けます・・。でしょ?」
「えぇ・・。『この子はこの世界を守る大切な巫女。どうか、大切に育ててください。』って・・。きっと彼女は神の御使いだったのね。」
「パパも同じ夢をみたのでしょう?」
「そうだよ。アンジェリーク。彼女は、名前は『アンジェリークと・・』そう言ったところで夢から覚めたんだ。」
アンジェリークという名前を、知らないはずがない。この世界を導く神の巫女に代々引き継がれる名前。
パパもママも驚いてすぐ教会に向かった。そして、教会のシスターに聞いたのよね。 「そうですか・・・。」
ここ数年、穏やかだった天候に、やや乱れが生じ始めていた。畑の作物も実りが減っているし、家畜たちの繁殖力も弱い。・・・そう時期が来たのだ。
巫女の交代という時期が・・。
「その夢の女性は、きっと今の巫女と共に神の元へわたった、侍女のディア・・ですね。」
「シスター・・。ご存じなんですか?」
「いえ・・。ですが、この教会は代々巫女と、そしてその侍女が神の元へ向かうための場所。私も前任のシスター長から聞いているだけですわ。そして、彼女があなた方の夢の中へでてきたのなら・・。きっと今貴女が身ごもっているその子供こそ、神の巫女になる子なのでしょう・・。」
「私達の。。子供が?」
神の巫女になる・・。小さな頃から聞いていたその伝説に自分たちの娘がなると言うことに。興奮と喜びをあらわにする両親にシスターは静かに語りかける。
「心してください。神の巫女となる子供であるのならば、生まれた時から。神の元へ上がるまで、あなた方とその子は数々の制約を受けて生活しなければならないことに・・。 生活の半分以上をこの教会で過ごし、そして17歳になれば、この地を離れ、永遠に合うことも叶わないのだと言うことを・・。」
「それでも、私達の娘です。共にいる間は、いえ・・。共にいる時間が短いからこそ私達はこの子に、人並み以上の愛情を・・そして家族の幸せを教えてあげたい。」
「・・・解りました。・・それともう1つ。彼女と共に神の元へ上がる侍女ですが。今、あなた方と同じように子供を身ごもっている家はただ1つ・・。カタルヘナ家だけです。 巫女と侍女は、いつも同じ日、同じ時にこの地に生を受けます。きっと彼女の子供が侍女になるでしょう・・。」
「まぁ・・。よかったわ。カタルヘナ家とは懇意にさせてもらってますもの。こんな偶然ってあるんですね・・。」

そして、数ヶ月後、私と、そしてロザリアは柔らかな午後の日差しがこぼれる教会の1室で、この世界に生を受けた。

神の巫女と、そして、その侍女として・・。





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