〜真実の絆〜

4.錯綜
ヴゥ−ンと機械特有の無機質な音が響く。飛空都市にある王立研究院の一室で画面に映し出されるモニターと手元の資料を行き来する深いグリーンの瞳。
エリューシオンとフェリシア。2つの大陸の育成状況は拮抗しているが、その発展状況は全く違う。それは、2人の女王候補の持つ雰囲気そのままだ。
「2人の育成はほぼ互角。試験はそろそろ終盤に入る頃だな・・・・。ルヴァ、そなたはこの2つの大陸を見てどう思っている。」
モニターを見ていたグリーンの瞳が、いつのまにか隣に並んだ光を捕らえる。黄金の流れる髪を持つ首座の守護聖、ジュリアス。
「そうですね〜。・・フェリシアは一言で言うなら完璧、でしょうか。初期の準備段階から発展全てにおいて無駄なくそれでいて無理がない。大陸の性質と民の希望、発展のスピードにおいても計算されていますね〜。女王候補として育ってきた彼女だからこそ出来る育成だと思いますよ。彼女が女王になったなら、宇宙の民は今まで、いえそれ以上に安定した生活が送れるのではないでしょうか?
・・・エリューシオンは、そうですねぇ。あえて言葉を使うならびっくり箱でしょうか。
初期段階から発展にいたるまで、試行錯誤を繰り返して育成してきた大陸です。育成の状況はフェリシアとほぼ互角ですが、エリューシオンには未だ未知の部分が多い。それゆえに災害や不安定な事象が起きる可能性も高いですね。次に何が起こるのか・・・蓋を開けるまで何が出てくるかわからないびっくり箱に似ているでしょう?
今までも何度も危険な状況に陥りながら発展を繰り返して来れたのは、そこから何かを学び取りより良くしていこうとするアンジェリークの意思の現われなのでしょうね〜。事実、彼女もエリューシオンも危機の度に少しづつですが成長しているのですから。
彼女が女王になった時は。」
一瞬、本当に瞬きをするかしないかの一瞬の沈黙ののちルヴァは続けた。
「何かしら冒険をしながらともに成長していくような女王と宇宙になるのでしょうね〜。」
ジュリアスの気配がわずかに動く。モニターを見つめながら話をしていたルヴァが気配に気づいて視線を動かそうとする前にモニターの画面が変わった。映し出されたのは聖地と、聖地を頂く宇宙。
「冒険か・・。」
ジュリアスにしては珍しいつぶやくような言葉。
「今、オスカーが聖地に戻っている。・・どうやら我々が考えているより宇宙の崩壊は深刻なようだ。辺境でサクリアの不安定さからくる混乱が起き始めている。」
モニターから視線をはずしたジュリアスは真っ直ぐにルヴァを見る。ルヴァもその視線を受け止める。・・・・長いようで短い一瞬の事。先に視線をはずしたのはジュリアスだった。
「私には、この2つの大陸が迷っているように見えるのだ。」
「?」
「この大陸は2人の女王候補そのもの。育成の仕方も発展もそれぞれの候補の特徴、性格を堅著あらわしている。」
「ジュリアス・・・・・」
はずした視線を再びルヴァに合わせ、ジュリアスは静かに告げる。
「私には、この迷いがわからぬ、いやわかっていてもどうする事もできぬ。生まれてすぐに次期守護聖として教育を受け、幼き頃より女王陛下と宇宙を守る守護聖の首座として聖地で生きてきた。私にとってはそれが私の信念であり生きる道標だ。その事に誇りや責任は感じても、不幸を感じたことはない。女王陛下は宇宙を導く唯一絶対の存在だ。」
そこまで告げてジュリアスは再びモニターに向かう。画面に育成途中の2つの大陸が浮かび上がる。
「だが、・・・・・私はあの時から考えてしまうのだ。私の考えで他の誰かに一生癒えない傷を作ってしまったのかと。そして、2度と同じ過ちを繰り返してはいけないのではないのかと。」
(絶対の存在。その存在のために有無を言わさず引き裂いた恋。首座の守護聖としてそれが間違っていたとは今でも思っていない。だが・・他に方法はなかったのか?・・他に言い様は無かったのだろうか?)
「ジュリアス、それは・・・」
(先の女王試験の時の事・・・クラヴィスと現女王の淡い恋・・・。)
「それを言うなら、私も同じですよジュリアス・・。私もあの時から考えていました。私のした事は間違っていたのかもしれないと・・そして、同じ過ちを繰り返してはいけないと・・。」
再び視線を合わせた2人はどちらともなくモニターに写る2つの大陸へと視線をむける。

ピピピと規則正しいベルの音が響く。
「ジュリアス様、オスカー様が聖地より戻られました。」
「わかった、すぐそちらへ向かう。」
通信を切り、モニターから離れるジュリアスはいつもと同じ誇り高き光の守護聖の顔に戻っていた。
「私は、これからオスカーの元へ向かう。そなたはどうするのだ?」
「え〜そうですね〜、よろしければご一緒してかまいませんか?聖地や辺境の状況がどうなっているのか私も知っておきたいですし」
答えるルヴァもいつもの穏やかな地の守護聖へと戻っていた。
パチパチとモニターを消し、2人はオスカーの待つ次元回廊の元へ向かった。


ぱらりと手から滑り落ちる報告書。
「おや、風が出てきたみたいですね〜。あぁぁもうこんな時間ですか〜。」
昼間の出来事に気を取られているうちに時間がかなりたってしまったようだ。手から落ちた報告書を拾い、開け放した窓を閉め様と近づくとそこにはきれいな満月が傾きはじめていた。
しばし、その月に視線を合わせていたルヴァは手に持つ報告書へ視線を移す。
「確かに、私達が思っているより宇宙の崩壊のスピードは速かったみたいですね。宇宙は、このままでは・・。」
来週早々にも試験の修正が行われる。一刻も早く次代の女王を輩出するために。そして一刻も早く滅び行く宇宙を救うために。
もう一度空にかかる見事な月を見つめて、窓辺に置いてある机の引出しから普段はほとんどと言っていいほど使う事のない灰皿を取り出してゆらゆら紫煙を昇らせてため息をつく。
「・・・・・私は・・・・・私は・・・・・・」
時計の針は休むことなくその時を進めていく・・・。あと5分で日付が変わる。
木の曜日から金の曜日へと・・・・・・・・

 

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