〜真実の絆〜

5.迷い
金の曜日の午後、コンコン・・。と少し控えめなノックの音が響く。
「こんにちわ!ルヴァ様。育成のお願いに来ました!」
ノックの音とは違い元気で明るい声が部屋中に響く。
「こんにちわ、アンジェリーク。育成ですね〜。わかりましたよ。」
「よろしくお願いします。」
「お茶でも飲んでいかれませんか〜。って言っても私の所には緑茶しか置いてないんですけど。」
笑ってうなずくアンジェリークに席を薦め、緑茶なんてやっぱりおじさんくさいですかねぇ〜と言いながらお茶を入れる。

…私がこの気持ちに気づいたのはいつの事だったのでしょうか。”勇気を出して自分の気持ちを伝える”・・・以前、私はそう言ったことがありました。今の私と同じように、心の狭間で迷っているあの人に。それが最良の方法だとあの時は信じて疑わなかった。でも結果は・・私は彼をより心の深みへ導いてしまったのかもしれません。もし、あの時…

「ルヴァ様?」
ちょっと心配そうな声が耳に届く。一瞬自分の思考にとらわれていた事に気づいたルヴァはいつもの微笑に戻る。
「あ〜、すいませんね〜アンジェリーク。」
「いえ。あの・・・ルヴァ様、大丈夫ですか?今日はルヴァ様なんだか疲れていらっしゃるみたいだから・・」
「あ〜、それはですねぇ。・・恥ずかしい話ですが、実は昨日夜更かししてしまいまして・・」
ちょっと苦笑い気味で答えるとくすっと笑う声がした。
「何か面白い本でも見つけられたんですか?前にゼフェル様がおっしゃってました。ルヴァ様は気に入った本が手に入ると睡眠も食事も忘れて夢中になってしまうんだって。でも睡眠と食事はちゃんととってくださいね?いつもルヴァ様は私にそう言ってるんですから!」
「そうですね〜。気をつけます。ありがとうアンジェリーク。あ、そうそうゼフェルで思い出しました!この間ゼフェルが持ってきてくれたおせんべいがあるんですよ。」
そう言ってお茶菓子を取り出しアンジェリークに薦めながら2人はちょっとした世間話を楽しんだ。
「あ〜、そう言えばアンジェリーク。あさっての日の曜日。何かご予定はありますか?」
「あさってですか?」
急に振られた話題にきょとんとしていた。
「え〜と・・。この間の日の曜日、せっかくお約束していたのに育成の話をしてしまったでしょう?もし良かったあさって一緒に外に行きませんか?この間のお礼もしたいので〜。」
すっと手にした湯のみを掲げて少し傾ける。それがプレゼントのお礼だと知ったアンジェリークは嬉しそうに答えた。
「本当ですか!うれしいです。じゃあ日の曜日約束ですよ、ルヴァ様!」
「えぇ。それじゃ迎えに行きますので、何処に行きたいか考えておいてくださいねぇ。」
…”勇気をだして自分の気持ちを伝える”自分が言った言葉なのに、今私はまだ迷っている。伝えるべきか否かを…


「いつきてもやっぱり綺麗で静かですね〜。ここは。」
日の曜日、アンジェリークと共にルヴァがやってきたのは森の湖。
少し前を歩くアンジェリークの手には大きなバスケット
”外で食べたらおいしいと思って・・。でもあんまりお料理得意じゃないので味は心配なんですけど、一緒にお昼食べませんか?”
そういってアンジェリークが差し出したものだ。
”それはうれしいですよ〜。お昼がたのしみですね〜”
そう言って2人はつい先ほど、この湖にやってきた。アンジェリークは湖のほとりで少しだけ水を跳ね上がらせながら楽しそうに遊んでいる。
彼女のふわふわした金髪が木漏れ日を受けてきらきらと輝く。その姿は本当に天使のようで・
”あんまり深くに行っては危ないので気をつけてくださいね−”と木陰から優しい声が届く。

…迷いがあるのならやめるがいい・・あなたはそう言いましたね。迷いは時に破滅を導くと・・・私は彼女に恋をしています。この思いに私は迷いはありません、いつから好きだったのか何処に惹かれたのか、それを探ろうとすればするほどかすんでしまうけれど、彼女に逢えない1日はとても長く共に過ごす時間は瞬く間に過ぎてしまう。もちろん、これは私の気持ち。アンジェリークが同じ気持ちでいるとは限りません。でもそれでも私は思ってしまう。同じ時間を共有したいと、私と同じ気持ちで私のことを見て欲しいと・・・。その思いに迷いはない。この先、彼女が至高の存在になってもきっと私はこの気持ちを消す事が出来ないでしょう。もう1度私は私に伝えます。”勇気を出して自分の気持ちを伝えなさい”と・・・クラヴィス、昨日貴方と話せて良かったですよ、私は貴方の言葉に背中を押してもらえたのだから…

「アンジェリーク。」
いつもより優しい声が湖に響く、金の髪の天使は微笑みながらゆっくりと振りかえった。


 

back     next

【月読紫苑様TOPへ】