〜真実の絆〜

6.月夜

『・・・・・・キ・・・テ・・クル・・ノ・・・・・・』
(また、一体なんなの?・・ここのところ毎日。最初は気にもならなかったけどどんどん間隔が短くなってはっきりと聞こえてくる。・・声?私に何を言いたいの?)
ここ1週間程、頭に直接響くような音に悩まされているアンジェリークはふるふるっと頭を2・3度振ると吹っ切るように立ち上がって窓を開けた。
「わぁ、綺麗なお月様。ふふ、お月見にお花見がいっぺんにできちゃうな。」
開け放した窓からすっと月に向かって伸ばした手に満開の桜がはらはらと舞い落ちる。
しばらくそうして眺めていたアンジェリークは、すっと立ち上がり部屋の中央のテーブルからノートと1冊の本を取り、部屋の明かりを落としてもう一度窓辺に腰掛けた。
「せっかく綺麗な夜なんだからもったいないわよね。それじゃなくても最近気が滅入っているんだから・・・・。」
ぱらぱらとノートを開く。毎日使っている育成の状況を記したノート。ここ1週間の状況を見て1つため息をつく。
「やっぱり、月の曜日にジュリアス様が言ってた通り育成のスピードが速くなってる。今週1週間だけで、1月分の発展、かぁ・・・。それに、ロザリアの方もかなりスピードが上がってるけど・・」
(でも、何だろう。何かが違う気がする。・・そういえば、あの声のようなものが聞こえるようになったのも今週に入ってからだっけ・・ロザリアは特に何も聞こえないようだし、う〜ん私疲れてるのかな)
手に持っていたノートを窓辺に置き一緒持ってきた本の間からそっと、壊れないように1つの押し花を取り出した。落ち込みそうなとき、疲れたときいつもそうやって取り出して眺めている物だ。
「ルヴァ様にはまだ教えてないけど、驚くかな?ルヴァ様が始めてくれた花だからどうしても取っておきたかった。でも向日葵って押し花にするの大変だったなぁ。」
そっと月明かりに翳して眺めると昼間の太陽に向かって咲く花とまた違う雰囲気を映し出す。
「本当は、試験が終わってもずっと持ってようと思って作ったけど。もしもの時は・・。」
女王は恋をしてはならない。聖地に伝わってる不文律。このままいけばどちらが女王になっても不思議ではない。
ルヴァがアンジェリークに思いを伝えたのは先週の日の曜日。
(ルヴァ様・・・・。まさかルヴァ様が私の事思ってくれていたなんて。いつも落ち着いていてきっと私の片思いだと思っていた。でも、だからといって試験を放り出すことはしたくない。エリューシオンはまだ発展しきっていないしそれに発展を望むエリューシオンの声を私は無視できない。それに・・)
『貴女のいつも前向きで、どんな困難にも目を逸らさずに進む姿に私は何か大事な物を思い出した気がするんですよ〜。だから、試験は最後まであきらめないで頑張りましょう。私もできる限りお手伝いしますから、ね?』
(・・あの時のルヴァ様の言葉、嬉しかった。だからどんな結果になっても後悔しないように頑張らなきゃ)

『・・・・・・キ・・・テ・・クル・・ノ・・・・・・』

頭の中に直接響くような声のような音。・・これは声なの?本当に私に何かを訴えているの?ぎゅっと目を閉じ少しでもはっきり聞こえないかと神経を集中してみるがその音はすぐに聞こえなくなってしまった
「はぁ〜。だめだめ!考えてもわからないことを無理に考えても答えは出ないわよね。明日は土の曜日でエリューシオンの様子見るだけだし、今日は早く寝よう!」
開け放していた窓をゆっくりと閉め、アンジェリークは少し早めにベットへと向かった。

   


カタカタと言う音にノートを見つめ思いを巡らしていた青い瞳がすーっと窓に向く。そのまま席を立ち少しだけ窓を開け放つと微かな風に乗って桜の花が腰まで届くロザリアの青い髪を彩る。
「・・・また、風が吹き始めたのね。」
乱れそうになる髪を左手で軽く押さえ、天上の月を見つめる。気候を安定させている飛空都市とはいえ風も吹くし、雨も降る。だが、ロザリアは何か違う物を感じ取っていた。
しばらく窓の外を見つめていたロザリアだが軽くため息をついて再び席に戻った。
「今週の育成のデータ。確かに育成のスピードは上がっているわ。でも・・、」
ノートに書き写した2つの大陸の様子。少し前までは2つの大陸は拮抗していた発展だが、今週の発展状況はかなり違う。見た目にはどちらの発展も拮抗しているが、明らかにアンジェリークの発展の方が上をいっている。
「わたくしとあの子大陸の発展に今まで大きな差は無かったはず。何が、変わったというの?」
しばらくノートや資料に目を通していた彼女はやがてふるふると頭を振ってノートを閉じた。
「考えても、答えはわからないわね。終わった結果に時間をつぶすより来週からの事を考えた方が効率的だわ。」
思考を切り替えなおも机に向かおうとしたとき、先ほどと同じようにカタカタと窓がふるえだした。
ざわざわと何かが忍び寄ってくる間隔。五感で感じると言うよりも頭に直に伝わってくるような間隔にロザリアの神経は集中する。
「この間隔、最近頻繁に起こる。何かしら・・そういえば、わたくしがこれを感じるときあの
子も何かを感じているように頭を振っているけど・・。試験と何か関係が有るのかしら。」
最近の出来事を思い起こしていたロザリアの耳に小さいが確かに何かの割れる音が聞こえる。
「隣の部屋?・・・まさか、アンジェリーク!」
声に出すと同時にロザリアは部屋を飛び出していた。

 

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