〜真実の絆〜

9.緊急会議
まぶしい朝の光が窓から届く。まだ早朝と言っていい時間に宇宙を支える9人の守護聖が聖殿内の1室に集まっていた。
急な招集にもかかわらず全員が時間内にそろっていることは滅多にない。それこそ宇宙にとっての危機が起きたときくらいのもの。
はじめは、なんだかんだと言っていた年若い守護聖達も、ほとんど会議に出てこない闇の守護聖が時間内に現れたことによって口を閉ざす。
緊張した静粛と不安が流れる。
その静粛を打つ破ったのは扉を開く音。そこに現れたのは女王補佐官であるディア。
「みなさま。お待たせしました。」
ふわりと笑顔。いつもの穏やかさに少しの緊張が加わった笑顔。
「女王陛下から、守護聖のみなさまに緊急にお伝えすることがございます。そのために早朝にもかかわらず集まっていただきました。」
一瞬走る緊張。その中で落ち着いている3人の守護聖。それを感じて軽く視線を動かした3人の守護聖。残りの3人はとまどいの中に緊張。
「昨夜のことです。女王陛下は微かにでは有りますが次代の女王のサクリアを感じたと・・。そうおっしゃっておられます。」
「じゃあ女王試験は終わったって事か!」
バンと勢いよく立ち上がるのはゼフェル。
「落ち着けゼフェル。試験はまだ終わっておらぬ。」
「おいジュリアス!新しい女王を感知したんだろう?この試験はどちらに女王としての資質が有るか確かめる物だったはずだろ。なんでわかったのに試験を続けなきゃなんねーんだよ!」
勢いよくテーブルに打ち付ける拳は僅かに震えている。
「ゼフェル。落ち着いてください、ね。ディア、話を続けてください。」
隣に座る地の守護聖は、ゆっくりゼフェルを席に戻す。
「えぇ。ゼフェル、確かにこの試験は2人の女王候補のうちどちら資質が女王としてふさわしいかを見極めるための物。ですが、女王が昨日感知したサクリアはまだ覚醒していない物だったそうです。・・・そして、そのサクリアがどちらの女王湖補の資質から放出した物なのかそこまで感知できるほど強い物では無かったそうです。」
「ちょっとまって、ディア。」
朝にもかかわらず綺麗に整えられたネイルをいただく手を軽く挙げてオリヴィエがディアの言葉を切った。
「陛下はサクリアを感知したって言ったよね?ということは女王候補達に何かが起こってその影響で覚醒していないはずのサクリアが反応したって事?」
「えぇそうです。オリヴィエ。・・宇宙がどういう状態に有るのかはご存じですね。」
オリヴィエとあわせていた視線を再び守護聖全員の方へ向けると静かにしっかりとした声色が言葉を紡ぐ。
「現在、聖地を中心とした宇宙は崩壊の危機を迎えています。その件に関してはこの間の会議で説明した通りです。そのために試験のスピードを上げ、少しでも早く新しい宇宙へと導かなければなりません。ですが、急激にスピードが上がったことにより、2人の女王候補の中の女王としての資質も急激に変化したのではないかと思われます。女王は宇宙の声を聞く事が出来る唯一の存在。おそらくは宇宙の辺境で崩壊していく惑星や生物たちの声が急に聞こえるようになって対応出来なかった。陛下はそうお考えです。」
「それじゃあ、アンジェかロザリアかどちらかが助けを求める声を聞いたの?それなら、それを聞いていたのが新しい女王陛下?」
まだ守護聖になって経験の浅いマルセル。しかし彼の司る力同様彼には植物や動物の心の動きが読める。その自分の感覚と女王候補が感じたであろう感覚がだぶって見える。
「それは、まだわかりません。声を聞いたのかもしれないし、感覚で感じただけなのかもしれません。」
少し視線を落としたディアに代わり首座であるジュリアスが口を開く。
「女王候補達はまだ、この試験が女王を決めるだけの物だと思っている。だが今回のことで、どちらかの女王候補が宇宙の異変の一端を感じたのなら、疑問や不安が広がっているはずだ。今のところどちらの候補にそれが起こったのかもわからぬ、よって女王候補に対して詮索をかけ動揺させることは出来ぬ。皆、それを心にとめて置いておくように。」


まぶしいだけだった朝の光に穏やかさが宿った頃、会議は終了した。
”もし、女王候補達が何かを感じそれを相談にきたのなら曖昧にはしないこと。自らの判断で伝えるか否かを迷った場合はすぐにディアか私のところへ報告すること”
会議の最後に紡がれた言葉によって、会議が始まって依頼閉じられたままだったアメジストの瞳が開いた。そしてジュリアスをみて薄く笑う。”・・・少しは大人になったのか?”と。
普段ならここで恒例の怒声が響き渡るところだが、ジュリアスは僅かに眉を寄せ、そのまま視線をはずして部屋を出ていった。その後を追うようにオスカーが続く。
それを見届けたかのように、静かに闇の守護聖と水の守護聖が出ていく。
「はぁ・・。僕たちこれからどうやってアンジェ達に接したらいいのかな・・僕自信ないよ。」
「マルセル、それは俺だって同じだよ。でもさ、さっきジュリアス様が言っておられた通りもし何かを感じていたらきっと疑問を持っていたり不安だったりすると思うんだ。俺たちじゃきっとうまく伝えられないと思うけど、何か感じたらディア様に相談に行こう!な?」
「・・おまえら・・ほんと脳天気だな。」
「何だよ!ゼフェル。」
「あ〜もう、やめてよ毎回毎回・・。」
いつも通りのやりとりを繰り返しながら若い3人の守護聖も部屋から出ていった。
「それで、あんた達はどうするつもりなの?」
長いウェーブの効いた髪を指先で遊ばせながら、残った2人、ルヴァにオリヴィエは問いかける。
「まさかと思うけど、あのお子さま達と私を同じに見ている訳じゃないよね?」
まっすぐぶつけられるダークブルー。まるで、嘘や言い逃れは許さないと言うように。
「オリヴィエ。・・・それは・・。」
「まぁいいよ。人の考え方や行動にいちいち文句つけるほど野暮じゃないよ、私は。2人とも自分達の思った通りにやったらいい。・・・・でも、忘れないで、私たちもいるって事。」
いつものようにパチっとウインクをするとひらひらと手を翳しながら扉を閉める。

部屋の中をすっかり穏やかになった光が満たしていた。

 

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