〜真実の絆〜

13.2人の決断
緊張から一転、今までの会話からは想像できないほどの優しい、穏やかな微笑。
「最後の話は、宇宙の事でも、試験のことでもありません。」
決意に満ちた瞳はそのままに、深い愛情がそっと、そのグリーンの瞳を包んでいく。
「この試験が終われば、貴女は女王候補ではなくなる。そして多分、次期女王になるのは貴女でしょう。」
「ルヴァ様・・・、もし私が女王になったとしたら、そしたら・・。」
そう、女王となったら、私とルヴァ様は、・・・
「創世の頃から今現在まで・・・公式に残る記録の中で女王が恋をしていたという記録はありません。・・女王は、宇宙の全てを愛す者。その愛を特定の人物にのみ向けることは宇宙の均衡を乱すことになります。」
「・・・女王は恋をしてはならない。・・・それは、聞いています。そして、女王の資質を持っていてもそれを放棄することも出来るということも。今までの女王候補の中には、試験中やその前から恋をして、女王になるのを拒んだ人もいたと、・・・そう聞きました。」
ぎゅっと握る手がかすかに震える。・・・女王になることを選べば最愛の人と別れなければならない。もし、女王になることを拒めば・・・宇宙は・・・。
「そう、ですね・・・。確かに今までにはそういった女王候補もいたはずでしょう。ですが、今回は今までの女王交代と決定的に違うんですよ。もし新たな女王が、女王になることを拒んだなら・・・それは宇宙の崩壊を意味しています。
ねぇ、アンジェリーク。私は、貴女に何が何でも女王になれと言っているわけでは無いのですよ〜。それに試験はまだ終わっていません。今の段階で貴女の中の女王としての資質が反応したと言っても覚醒していないのですからね?このまま試験を進めていけばあるいは女王として覚醒するのはロザリアかもしれません・・・・。それに、公式には女王が恋をしていたという記録は残っていなくても、恋心を抱いたまま女王としてしっかり責務を果たしている女王もいますよ・・。」
「恋をしたまま・・女王に??」
握っていた手に力がこもる、指先が白くなるほど握られたその手にそっと手を置くと、安心したかのように少しだけ戒めが解かれる。
「・・・・でも、その思いはけして表に出せる物では無かった。それがどんなに辛く悲しく・・・そして苦しいものだったのか。今の私にはよく分かる気がします・・・。女王となったからには、その思いは決して表に出してはいけない物。それは思いを分かち合った相手も同じだったのですから・・・。」
「ルヴァ様・・・私・・・私、どうしていいのかわからない。もし、私が女王になったら・・・そしたら、私は宇宙とルヴァ様とどちらか一方を選ぶなんて、そんなこと出来ません・・・・。」
・・・・うつむき加減の瞳にはうっすらと涙の雫。こらえきれず落ちるその一滴にさえ、愛おしさを感じてしまう自分。・・・でも、やっぱり貴女に涙は似合わない、・・・・貴女にはどんなときにだって笑顔でいて欲しい、あの輝くような見る物全てを引きつけてしまうあの太陽のような微笑みを・・・・・
重ねていた手をぎゅっと握る、離したくない思いを込めて・・・
「考えましょう、アンジェリーク。私は貴女に無理なことを強制したくはありません。私にとっても貴女にとっても、きっと最適な方法があるはずです。大丈夫、今までの女王達だってこうやって乗り切ってきたのでしょう・・。私たちに出来ないはずは無いでしょう?お互い、選んだ道に後悔することが無いように、一緒に考えていきましょう、ね?」
どんなに考えても、どんなに願ってもきっと答えは1つだけ。それでも、2人で納得して出した結論なら、2人で選んだ決断なら迷う心も後悔する気持ちも乗りきっていけるはずだから・・・


桜の花は完全に散った。差し込む日射しは刺すように暑い。何度も何度も話をして、何度も何度もお互いの気持ちを確認して・・。
迷いそうになった夜も、逃げ出したくなった日も、いつもルヴァ様は私を支えてくれた。穏やかな微笑みと力強く優しい深いグリーンの瞳で。
『ルヴァ様、私、やっぱりわからない。こうやって育成をして大陸の発展を見ると、私、逃げ出すなんて出来ない。あの声を聞いていると何とかして助けてあげたいってそう思う。・・・この声を無視することなんて私にはできない・・。でも、ルヴァ様ともう2度と逢えなくなるなんてそれを考えると・・・』
『あ〜、アンジェリーク。泣かないでください。私は貴女の涙は見たくないんですよ〜。いつも貴女には笑っていて欲しい。・・ねぇ、アンジェリーク。こう考えることはできませんか?私は守護聖でしょう?もちろん私だって死ぬまで守護聖でいられるわけではありませんが、少なくとも貴女が宇宙を救う時、宇宙の移管を行う時には私は貴女と一緒にこの宇宙を救うことが出来る。私のサクリアか、あるいは貴女のサクリアか、どちらが先に無くなるかはわからないけれど、それまで私たちは一緒にこの宇宙を守って行くことが出来る。たとえお互いに思いを告げることが出来なくなったとしても、私たちは同じ思いでこの宇宙を守って行くことが出来るんじゃないですか?』
『一緒に・・・宇宙を守る?同じ思いで宇宙を守っていける・・・』
『私は貴女に女王になることを強制しようとは思いませんよ〜。無理矢理女王になったところで、その重圧に耐えられなくなったらきっと後悔してしますますからね・・。でも、貴女はもう答えを出しているでしょう?宇宙を大陸を見捨てることなど出来ないないのだと・・それなら、少し考え方を変えてみましょう。何も必ず側にいるだけが正しいとも言えません。宇宙を導くサクリアの中に私は貴女の思いを感じることが出来る。そして私の思いも貴女は感じることが出来る。』
『・・・ルヴァ様、私、守ります。この宇宙と、そしてこの宇宙に生きる全てのもの達を・・。そうすることが、ルヴァ様を守ることにもなるんだもの。私、後悔しません。ルヴァ様が私の背中を押してくれたから、2人で出した答えだから。間違っているなんて絶対に思わない。』
育成が進めば進むほど、私とロザリアの差は広がっていく。そして多分、今日力を送れば・・、明日には試験は終了するだろう。

コンコン・・。
いつもと同じ少し控えめなノックの音。
「こんにちわ!ルヴァ様。」
「こんにちわ、アンジェリーク。今日も元気ですね〜うんうん。」
「今日は、・・・今日は、育成のお願いに来ました!よろしくお願いします。」
ぺこっとお辞儀をする姿は試験当時から何も変わらない・・・・。ただ、その肩だけが僅かに震えて・・・
そっと肩に手を置けば、安心したように震えが止まる。そして、こぼれ落ちた太陽の欠片のような眩しい笑顔。
「分かりましたよ〜。アンジェリーク。」
午後の日射しがさんさんと降り注ぐ執務室。今までと変わらない2人の笑顔。・・・後悔しない・・・だって2人で出した答えだから・・・

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